a slowly dish
久慈市など三陸海岸北部で、漁師の浜料理として生まれた「いちご煮」。
「煮物」として具をたっぷり盛りつけるのが本來のスタイルです。
「いちご煮」は、澄まし汁の中にウニとアワビが浮かぶ贅沢な一品。青森県八戸市から巖手県沿岸北部にかけての郷土料理で、可愛らしい名前は、汁の中の丸まったウニが木いちごに見えることから名付けられました。
缶詰製品もよく知られており、どちらにしても「お吸い物」の印象が強いのですが、久慈市ではもともと「煮物」だったとのこと。市內で25年前(2007年當時)から「幸壽司」を営む延足正幸さんによると、漁師の人たちがとれたてのウニやアワビを鍋に入れ、それから出てくる海水で煮て最後に醤油を少し加えて作る浜料理なのだそうです。
「お盆の頃の産卵期に入ったウニは出荷できない。それを利用していたようで、8月の暑い頃に食べる料理だと聞いています」
一方のアワビも、今でこそ高級品ですが、「30年くらい前は市內の海岸で簡単に拾うことができた」と延足さん。だからこそ、どちらもたっぷりと豪快に鍋に入れて調理することができたのでしょう。
「煮物」のルーツに忠実にウニとアワビもたっぷりと
隣町の葛巻町出身の延足さんが最初に食べた「いちご煮」も、この浜料理スタイル。その贅沢感とおいしさに感激し、以來、何とかこの味を自分の壽司店で提供したいと試行錯誤を重ねました。
ところが、ウニとアワビからのおいしい出汁とともに、甘くやわらかいそれぞれの身を味わえるのは、どちらもとれたてだからこそ。そのため店で同じ味は作れないと気づき、それぞれを別鍋で煮て器に盛り、カツオ節と昆布でとった出汁をかけるオリジナルの「いちご煮」(2625円)を考案したのです。
直徑10センチの器には、1個分以上のウニと、厚くスライスされたアワビが3切れ。上品な甘さのウニは口の中でほろほろと崩れ、アワビはしなやかな食感です。贅沢な「煮物」として、辛口の日本酒などと合わせて食べてみてはいかがでしょうか。
文/赤坂環
寫真/奧山淳志
rakra2007年8月號掲載
2007年7月頃撮影

幸壽司
巖手県久慈市川崎町8-15
TEL 0194-52-4363
営業時間 11:30~14:00、17:00~22:30
日曜定休
ロイヤルシティ八幡平リゾートから約110km

ぷっくりした淡い黃色の身は、鮮度の良い証拠です。

清潔感あふれる「幸壽司」の店內。

「いちご煮」には、厚く切ったアワビが2~3切れとたっぷり入ります。

「本來のいちご煮は、お吸い物ではなく煮物であることを知ってほしいですね」と幸壽司のご主人?延足正幸さん