谷地溫泉
山奧に佇む、昔ながらの湯治宿
八甲田連峰の中にあり、日本三秘湯に數えられる一軒宿が谷地溫泉。開湯400年と伝えられ、マタギが見つけた溫泉として、古くから続く湯治場の風情を色濃く殘している。今も全國各地から1週間、2週間と、湯浴みを楽しむ人があとを絶たない。
宿の細長い廊下を進むと、青森ヒバでできた浴室。硫黃溫泉ではないが、なぜか硫黃の香りがする。乳白色の湯はさらりとしていて、時おり湯船の底から湧き出す源泉の泡が、秘湯気分を思う存分、満たしてくれる。
まずは、ぬるめに30分。そして、湯の花が多い熱めの湯に10分入れば、體中ぽかぽかになる。
「腰が痛くて歩けなかったのに、ここに來たらホントに元気になりました」と、県外から訪れたおばあちゃん。
湯船にじっくり浸かっていると「私は、やけどがすぐに治ったの」「ここは、この古さがたまらないのよ」と、溫泉談義で盛り上がってしまった。
男性の浴室は、女性が自由に出入り出來る、半混浴。「私、混浴大好き」とお母さんが入りに行った。
そして、もうひとつ。雪深い谷地は12月から3月まで、夜中にテンが訪れる宿として人気だ。夕食を終えた午後7時過ぎ、食堂の外に巣を作った親子のテンが、ひょっこり顔をのぞかせるという。また作家?瀬戸內寂聴が源氏物語執筆のため、1ヶ月滯在した宿でもある。
ここは攜帯電話も繋がらない、俗世間から隔離された、特別の空間。ほてった素肌は、いつしかツルッツルになっていた。
rakra2009年11?12月號掲載
2009年10月頃撮影

谷地溫泉
青森県十和田市法量字谷地1
TEL 0176-74-1181
日帰り入浴/500円(10:00~18:00)
宿泊料金/1泊2食付6,800円、湯治(素泊まり)1泊3,800円(入湯稅150円別途)
ロイヤルシティ八幡平リゾートより約155km


八甲田連峰を見渡せる山奧の溫泉には、湯治客のほか、登山やトレッキングを楽しんだ人たちもたくさん訪れる。冬、雪が降ったとき、闇夜に、可愛い顔を見せてくれるテンは、谷地溫泉の人気者だ。



男性風呂の、熱めの湯とぬるめの湯の真ん中にある、乳白色の飲泉。スポーツドリンクのように、體に滲みていく。湯治宿を家族で訪れる人も多く、部屋では笑顔と會話が絶えない。季節の山の恵みを豊富に取り入れたこの日の夕食は、イワナの塩焼き、マスのルイベとイワナの刺身、さつまいもの天ぷら、カボチャのゴマ豆腐など。乳白色の溫泉に見立てた、山菜たっぷりの「秘湯鍋」は、宿泊客から喜ばれる一品だ。これで1泊6,800円は、とってもお得。谷地濕原に接する谷地溫泉の夜は、靜かに深けていく。