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インタビュー 008
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稅理士リレーインタビュー 第八回 「トータルでメリットになるよう、根気強く提案を行っていくのも稅理士の大切な役割」 稅理士法人 ガイア代表社員稅理士 野口省吾様

公開日:2017/09/29

インタビュアー(以下I):ガイア様は東京の北區で先代から數えると40年もの実績をお持ちです。

野口(以下N):私がこの地にガイアを開業して11年目になります。稅理士としては二代目ですが、同じ北區にあった父の事務所には入らず、自ら開業しました。3年目に父の事務所を承継して今に至りますが、あちらを廃業させてガイアとして統合するという「逆さ合併」で、これはかなり珍しいパターンだろうと思います。
広告展開なども積極的に行っていますので、外からは派手に見えるかもしれませんが、基本に忠実でとても真面目な王道の事務所だと思っています。職員には、お客様に1カ月に一つは必ず新しい提案をお持ちすることを義務付けていますし、赤字を出した擔當者には「今月の赤字の理由と來月の改善點」という二つの反省文を書かせます。大手と違って中小企業なので、がんばらないとすぐに潰れてしまいますから職員と一緒にお客様のことを考え、職員たちを叱咤激勵する毎日です(笑

I:事務所に貼られている「無料相談受付中」というポスターを拝見して、かなり門戸を広げられている印象を受けました。

N:北區は今、東京で最も高齢者が多い區になっていて、うちとしては銀行とも競合していかなければならず、ポスターはガイアの名前をまず地元で知ってもらうための入り口でもあるんです。
稅理士の本來の仕事は稅務代理と稅務相談で、銀行は間接金融ですが、その間にある資産活用、保険、信託、遺言などはすべて競合になります。
たとえば、遺言作成は金融機関でも行われていますが、私たちは遺言作成の際に10萬円を頂戴するだけです。執行人も含め、最後までお守りします。
こういうことは稅理士の仕事ではないと考える人もいます。確かに本分は稅務代理ですが、資産や家族などの個人情報も把握しているのは稅理士ですから、そういうところが窓口になってワンストップで全部を受け持ったほうがいいというのが私の考えです。あらゆることを知っているからこそ、有効な提案ができると考えています。

I:窓口の一本化ですね。お客様にとっては負擔が少なく、また安心感も生まれます。これからそういうニーズが高まるのではないでしょうか。

N:ほかにも、たとえば遺産分割や遺産整理手続きで、謄本など裁判所に提出する書類が必要になりますよね。一般の方がこうした書類を作成するのは難しいものですし、お子さんが後見人として管理している場合、殘念ながら使い込みのケースなども見受けられることがあります。
そこでガイアでは行政書士の窓口も設けて、お客様に少しずついろいろな面で得をしていただけるよう、また銀行融資などについてもご相談に乗れるよう、多様な體制を整えています。外部の優秀な弁護士ともタッグを組みつつ、総合的に本業から外れない範囲で、お客様にとってのワンストップサービスを展開しています。

I:個人の土地オーナー様の課題について、最近、特に目立つ傾向のようなものはありますか。

N:結局、その土地をどうやって守っていくか、誰に継がせていくか、その相続をいかに爭いなくまとめるか、そこが中心になることに変わりはありません。
もともと相続対策というのは、殘される子どもたちのためのもので、稅金がいくら取られようが親にはあまり関係のない話なんです。それでも、払う稅金は少ないほうがいいわけですから、いくら稅金がかかるのかを調べたうえで、「いかに土地を売らないで現金をつくるか」など、基本に忠実なサポートを行っていきます。
日本は土地の値段が安定しているので、やはり土地をどう活用するかがポイントになります。土地活用を相続対策としてのみ考えるのではなく、その後の所得稅なども含めて「トータルで節稅対策になる活用法」を考えることが大切です。
たとえば、賃貸住宅を建てて家賃収入が入ってくれば、そこに所得稅がかかってきますから、建物だけを子どもに贈與するとか、賃貸住宅は會社の所有にしてしまうとか、いろいろなパターンを考えなければ効果的な稅務対策にはならないと思います。
節稅対策というのは稅率の「レバレッジ」です。財産の移転をする際、所有者が亡くなったら本來は50%の稅率がかかります。それをいかにして20%や10%に抑えるか、ということに盡きるわけです。「生前贈與」なら10%で済みますから、たとえば500萬円を毎年子どもに渡していけば、そのつど40%に當たる200萬円が軽減できるわけです。でも、子どもが渡したお金をどんどん使ってしまうようですと、適切な方法とはいえません。そういった家庭や家族の狀況を見て、お客様の40年後を想像しながら、資産活用のアドバイスを行っていくのが私たちの役割です。

I:そうした資産活用において野口先生が特に大事にされているポイントはありますか。

N:基本的には親の財産であって、子どもはそこに多くを期待すべきではないというのが私の意見です。本來は自分のものではないものをもらうから「相続稅」がかかるわけで、親の遺産を當てにするほど揉めますし、そこは本末転倒になってはいけないと考えています。
親のものを子どもがもらうのは當たり前だとか、そこに課稅するのはおかしいとか、そういう感覚や目線をお持ちの方とご相談をするときは、こちらの提案とお客様のご要望のすり合わせが難しいと感じることもあります。
払うべき稅金は払わなければなりません。そこで、稅金の有益な使い途について、できるだけたくさんの選択肢を提案するのが私たちの役目だと思っています。
今はネットで調べればいくらでも情報が書いてありますから、聞かれたことに答えるだけでなく、お客様のニーズをしっかりくみ取ること、そしてわかりやすく伝えることが大切になるかと思います。

I:ネットなどで得た偏った知識や安直な稅対策をうのみにして相談にいらっしゃるお客様にどのような対応をしていらっしゃるのでしょうか。

N:いろいろな角度から見て得しているかどうか、少なくともお客様が損をしないようなアドバイスができるのは、やはり稅理士だと思います。
たとえば、建物を建てるにしても、それが不動産として20年経っても価値があるものになり得るのかどうか。ハウスメーカーさんは基本的に家を建てて売るのが仕事ですから、彼らの建てたプランが本當に正しいのかを査定するのは私たちの役目になります。つまり、ハウスメーカーさんなどパートナー企業にお客様を紹介する際には、私たちにも「紹介責任」が生じるわけです。
私たちは、法改正や稅制改正、助成金など、次々に出てくる課題を一つずつ全部調べて整理して、最新の狀況に見合った解決策につなげています。こうした努力がなければ、お客様に適切な方向性を示すことはできませんし、こういうことは稅理士にしかできないことだと自負しています。

I:土地活用においてはハウスメーカーの役割も大きいと思います。ガイア様ではどのような観點でパートナーを選択されているのでしょうか。

N:一般的な土地オーナー様が賃貸住宅や自宅を建てるとなれば、やはりハウスメーカーさんに安心感を求めるわけです。そうすると、ある程度の幅は選べるにしても、だいたい似たような建物になりがちなんですよね。
その中で、大和ハウス工業さんの場合は、大手なだけに幅広い提案力があって、その方向性もいいですし、さまざまなパートナーとの協力體制もしっかりしているので、そこはやはり頼もしいところだと思います。
賃貸住宅の収支計畫などでも、大和ハウス工業さんはお客様に対する提案に噓がなくて、企業としての安心感があります。業界內でのイメージも良いですよね。
私たちも、そういったハウスメーカーさんの特徴をきちんと把握しておかないと、お客様に提案するときに自信を持って選択肢を示すことができませんから、よく考えたうえで、そのケースに最適だと思うハウスメーカーさんを紹介するわけです。
大和ハウス工業さんの場合、建築だけでなく、不動産の活用から実際の賃貸住宅運営のサポートに至るまで、トータルでこなしてくれるので、お客様にとってのメリットは大きいと思います。立ち上がってからのスピードも速いですし、うちの案件でも大変速いスピードでいつもやっていただいて感謝しています。

I:土地オーナー様が初めて稅理士さんに相談される際、心構えも含めてどういった準備をしておけばよいでしょうか。

N:「なぜ、相談に見えたのか」ということを整理しておいていただければいいかと思います。お話を伺って、土地の規模や土地活用のジャンルなどが不向きだと判斷できれば、そこは稅理士からもアドバイスさせていただいています。こうしたことはよくあることなので心配はいりません。
お客様のニーズが明確であれば、それに対しての提案にきちんと結びつけることができます。
逆に「何をしたいのか」の部分でお話がかみ合わないと、何をご提案してもアドバイスとはいえなくなってしまいます。

I:初めてのお客様に対しては、どのようにご対応されるのですか。

N:聞き取りの技術がすごく大事だと考えています。最初のうちはなかなか本音を稅理士に言いづらいものなので、そこをどうやって引き出していくかが肝要だと思います。「本當は何がしたいのか」を全部言えるとお客様も楽になれます。そこまでいってうまくお互いに信頼関係ができれば、悩みごとや課題を整理しながら、提案や助言を交えつつ解決策までもっていけるように心がけています。最初の1時間程度のご相談で解決策まで提示しないといけないことも多いです。
シンプルな案件もあれば、後ろに何か大きなものが控えているケースもあります。すぐに仕事に結びつけようとするのではなく、まずはなぜそのお客様が相談に見えたのか、急ぎなのか急ぎではないのか、そういったことを把握できるように留意しています。お客様が持參する案件のパターンは千差萬別ですから、そこをきちんと見極められることが自分にとっての一歩だと考えています。

I:初対面でいかに信頼していただけるか、そこが何よりも大切になるわけですね。

N:そう思っています。目の前の稅理士を信頼できなければ、どんな提案を受けてもお客様は腑に落ちないと思うんです。後から育つ信頼ももちろんありますが、最初の信頼がやはり大事になりますね。「この人に全財産を預けよう」と、初めてお會いした日に決めていただけるのは本當にありがたいことだと思っています。
また、信頼関係を築くうえでは、お互いに期日を守るとか、初めての場合は契約書をきちんと交わすとか、內金をいただくとか、そうした細かいところが案外大事になってきたりします。せっかくいい雰囲気で進めていても「言った、言わない」などで後日トラブルになるケースもないとはいえず、後で問題が起きないよう、お互いに証拠づくりをしておく必要はあるかと思います。申告時と同様、お客様との間のエビデンスも非常に重要です。

I:ガイア様では、稅務申告書を作成する際、可能な限り「書面添付」を行うということですが、実行されている事務所は少ないそうですね。

N:「書面添付制度」は、申告納稅方式等により作成された國稅等の申告書について、稅理士が、自ら計算し、整理し、もしくは相談に応じた事項、または審査した事項について、稅理士としての意見を、稅務署等に対して明らかにする手段として設けられたものです。
したがって、この書面添付制度は、稅務に関する職業専門家である「稅理士」だけに認められた権利でありまして、私ども稅理士は、申告納稅制度の理念に沿って行動すべき使命を持っていますので、その積極的な活用が望まれております。
また、書面添付制度による書面が添付されている申告書について、稅務調査を行う場合には、稅務署等の調査官は、納稅義務者への事前通知を行う前に、私ども稅理士に対して、書面添付に関して、意見を述べる機會を與えなければならないとされております。

I:いわゆる「爭族」について、野口先生はどのように見ていらっしゃいますか。

N:相続には配偶者などの姻族も絡んできますから、本當に複雑です。遺言書作成の際、「お世話をしてくれた1人の人に全部をあげたい」とか、いろいろな依頼があります。後のトラブルを生まないよう、裁判までいかなくて済むよう、私たちがさまざまな角度から見て、適切なアドバイスを行う必要があります。
「裁判になってもいい」とおっしゃるのであれば、その意に沿うのもやぶさかではありませんが、裁判になると、お金がかかるうえに人間関係がこじれます。皆さんのご希望を踏まえたうえで、喧嘩になる前に「喧嘩になりますよ」ときちんとお伝えすること、あまり揉めないですむような方向性を提案するのが、私たちの役割だと思っています。

I:稅理士さんに対しては遠慮せず、率直に相談すればいいわけですね。

N:とにかく、お客様に開襟していただいて、いろいろとお話いただけること、それがその後の効果的な仕事の達成度に関わってくると思っています。
たとえば節稅対策についても、脫稅に近いような危険なことはやってはいけないこと、その代わり、「こういうふうにコツコツやれば、これだけ得しますよ」ということを、時間はかかってもきちんとお伝えしていきます。
とにかく「揉めごとを起こさない」というのが稅理士の基本的な考え方だと思っています。それは相手が稅務署だろうが家族だろうが同じで、揉めていいことは何一つありません。
選択するかどうかはお客様の自由ですが、「自分がお客様だったらそういう情報は絶対に知りたい」「稅理士にこういうことを相談したい」という視點で情報や選択肢を提供していますし、そうした関わりを通じて皆で一緒に成長していければと考えています。

I:事業承継についてはいかがでしょうか。

N:これも早く著手したほうがいいと思いますね。
二代目が年をとってから事業承継するのは問題になることが多いというのが、経験からの実感なんです。
一代目はゼロからスタートした強者ですから、70歳でもお元気だったりしますが、だいたい現役で元気のある55歳くらいから先は、後進に譲ることを念頭にしたほうが良いのではないかというのが持論です。
代表権は持たないまでも、とりあえず二代目に社長の名刺を持ってもらうことが重要で、そうすると本人の気概も周りの評価も違ってきます。一方、その會社をつくってきた人にいきなり全部を渡せというのは大変なので、先代には代表取締役會長になっていただくなどして、元気な會長の力を生かしながら、少しずつ本質的な事業承継を進めていくわけです。

I:70歳近くになっても現役で頑張っている方に「そろそろ事業承継を」と言っても、「まだ早いよ」と思われるのは當然のことですからね。

N:最初に私が見るのは、社長が1人で回している會社だったら「社長が病気になったときにこの會社は回るのかな」という部分です。そういうことは早め早めに想定しておくべきです。病気や死などは、いつかは必ず起こる事態ですから、社長がいなくなっても會社を回せるようなシミュレーションをしていかなければいけません。
昔、「想定內」とか「想定外」という言葉が流行りましたが、この想定ということがすごく大事になるかと思います。経営者には責任がありますから、日頃からいろいろな問題を想定して準備しておくことが大事だと思います。

I:どれくらいのタイミングで始めればいいのでしょうか。

N:基本的には、10年くらいかかると思って著手されるのがいいのではないでしょうか。でも、10年も待てる方はなかなかいません。それでも、私たちは常にさまざまなパターンの提案を行います。経営者の方も心の隅に留めてはいらっしゃるので、斷られても言い続けることが大切なんです。そうやって情報を提供し続けていると、タイミングが合ったときに突然GOが出たりします。そこをちゃんと理解して、根気強く提案し続けるということがすごく大事になると思います。
組織の相続対策においても、株などは急に動かすと稅金が高くなりますから、何年もかけてじっくり行うのがよいでしょう。

I:最近では、認知癥の問題も出てきました。

N:それは大きいですね。事業承継に限らず、ご本人が認知癥になってしまうと相続対策ができませんから、早めに対策を始めていただくことは本當に大切だと思います。
私は障がい者団體の理事も務めていますが、知的障がい者や認知癥の方の権利を誰が守ってあげるのかということが大きな課題となっています。お金を管理するのはまさに私たちの本業ですから、そこは稅理士がもっともっとサポートしていけばいいのではないかと思っています。
ただ、何をやるにしても、いろいろなことを考え、きちんと戦略を練らないと、良い結果には結びつきません。私たちのベースは「どうやったらお客様が少しでも得をされるか」ということであり、それがすべてのスタート地點になります。そういった理念を若いスタッフに浸透させていくのはなかなか難しいことですが、小さな會社ですから、やはりトップである私自身が現場に出て、背中を見せていかないといけないと思っています。

I:お客様に寄り添い、さまざまなニーズの受け皿となって、少しでもお客様のメリットになる方向性を考えながら、皆で一緒に成長していく。稅理士の仕事はとても素晴らしいものだと改めて思いました。本日はありがとうございました。

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