
稅理士リレーインタビュー 第21回 「弊社のお客様の6割が黒字です。中小企業の経営指導には自信を持っています。」 稅理士稅理士法人田尻會計副所長 田尻重暁様
公開日:2019/03/29
事業承継は、大きな課題
インタビュアー(以下I):田尻先生の拠點である墨田區はどのような地域特性がありますか。
田尻(以下T):墨田區は印刷、繊維、金屬系の工場や革なめしの工場など、昔から続く、いわゆる町工場(會社)が多いのが特徴です。
しかし、全體的に経営が厳しい狀況で、墨田區では會社がどんどん減っています。町工場スタイルの會社數は、一番多かった1970年代と比べて、3分の1くらいになってしまいました。さらにこれから減っていくでしょう。
會社が減少する原因の一つは後継者がいないことです。その対策として、墨田區では後継者育成のために「フロンティアすみだ塾」という勉強會を開いています。墨田區の會社の後継者の方が集まって、1年間勉強します。毎年開かれていて2019年4月に16期が開講し、私は11期生です。
I:事業承継の事例も多そうです。
T:墨田區では後継者自體が少なくなっているのですが、事業承継が必要な會社にもかかわらず、事業承継について自覚がなかったり、事業承継が必要だと思いつつも何もしていなかったりするケースが多く見られます。東京商工會議所に、「社長60歳企業健康診斷」という事業があります。原則60歳以上の方で、後継者が必要となったとき、直接申し込むことができますが、多くの場合は地元の金融機関が、この取引先は事業承継が必要だが何もしていないということを商工會議所に相談します。そこで、私たち稅理士、會計士、商工會議所のコーディネーターが一緒にその會社に行き、やったほうがいいと思うことを問題提起して、顧問の稅理士さんに相談してくださいというかたちで報告書を出します。
I:事業承継において、土地活用を行う例はございますか。
T:できれば誰かが跡を継いで、會社が存続するのが一番良いと思います。しかし、私どものお客様でも、このままだと毎年赤字になってしまうような會社があるのも事実です。同じ業界で他の會社がどんどん倒産し、ご自身も體調が優れないとなると、どうしてもこの先どうしようかとなります。自社に不動産があるのなら、毎年資金繰りが苦しい會社を続けるより、そこにマンションや高齢者向けの施設を建てることを選択したほうが良い場合もあるでしょう。こちらから積極的にご提案するわけではありませんが、會社をたたみ不動産オーナーになる事例も年に1件くらいあります。
社長にしてみれば、土地活用のアイデアが乏しいので、不動産を売って現金にしようと考えてしまいがちですが、うまく活用すれば毎年収入が入り、活用がうまくいかなければ売卻することを考えればいいわけです。こういうご提案も事業承継の一つのオプションとしてありますし、今後増えていくと思います。
相続稅対策をやりすぎないこと
I:個人の土地オーナー様からのご相談はありますか。
T:実際にあった例ですが、賃貸住宅やマンションを何棟もお持ちの70歳くらいの方から相談があり、お話を伺うと、キャッシュフローがまったく回っていない狀態だということでした。今後、修繕があるとさらにキャッシュが回らなくなってしまうので、もう不動産を売るしかないとご相談にいらしたのです。
ご本人が個人で借り入れをしてマンションを建てると、所得が多い場合、所得稅と住民稅で55%くらいと非常に高額になります。
そこで、お子様の名前で會社をつくりました。仮に5億円を銀行から借金して5億円の建物を建てていた場合、その會社に5億円を付け替えて、會社が親からキャッシュで建物を買い取ります。法人稅は30%くらいですから、個人に比べて納稅のキャッシュフローがよくなります。ただし、相続稅対策については、親にキャッシュが戻ってしまいますので対策が必要になります。年に1 ~2件、そういったご提案をしています。
このケースのように、相続稅対策をやりすぎてしまう方がけっこういらっしゃいます。過度の借金をして、キャッシュフローが回らないのに、相続稅対策のために無理をして建ててしまうのです。稅理士の中には、「相続稅がなくなったのだからいいんじゃないですか」という方もいますが、それでは何のために頑張ってきたのかわかりません。バランスが大事です。
I:事務所のホームページに相続稅対策の特設ページを作られていて、かなり詳しくご紹介されています。相続のご相談は増えていますか。
T:私どもの事務所は會社の経営指導がメインですが、最近は相続に関するニーズも増えてきました。全國的にも申告が必要な人は3倍くらいになっているようですし、私どもの事務所でもやはり申告件數は3倍くらいになっています。
一戸建の家と土地を持ち、配偶者の方が亡くなっていて相続人が少ない場合、相続稅がかかる可能性はとても高くなります。そうなると、1億円、 1億數千萬円の財産の方でも、相続稅の対策をしなければなりません。しかし、実際どうしたらいいのかわからない方がいらっしゃいます。とりあえず、今の狀況を知りたい、不安や心配事を解決してほしいと思われているわけです。
そこで最近、相続稅対策に特化した回數限定の顧問稅理士をやっています。會社の稅理士は別にいるのだけど、會社の稅理士が個人の資産のことを指導したがらない、得意ではない、あるいは個人のことはあまり見せたくないといったケースもあります。
半年のスポット契約で毎月打ち合わせをし、計5回くらいのご相談で月5萬円という內容です。現在、月に1 ~ 2件のご相談があります。この時點ではそれほど精緻な対策は必要ないので、おおよその稅額を計算します。さらに、不動産を活用した小規模特例や生命保険などをプランに入れてご報告します。入口のところで私たちのサービスをお試しいただけるような商品になっていますので、途中で実際に贈與しようというお話になれば、申告までお手伝いさせていただけます。心配で相談される方が多いので、できるだけわかりやすく、高圧的にならないよう、丁寧に接するようスタッフ一同心掛けています。
I:大和ハウス工業と一緒にお仕事をされる良さはどのようなことでしょうか。
T:まず、大和ハウス工業さんは建物自體のクオリティーが高く、お客様にも喜んでいただいています。また、グループ會社でいろいろな事業を展開されていますから、建設後のフォローもすべてお任せできます。オーナー様にとって、お仕事とマンション管理の両立は大変なことです。大和ハウス工業さんのようにグループでやってくださるところに頼むと、後々良いと思います。また、不動産の経営は長い期間に渡りますから、オーナー様は先々のことをすごく心配されます。20數年契約したにもかかわらず、運営會社が途中で倒産してしまうことを一番心配されます。ですから、信用力がある會社というのがお客様にとっては非常に安心できると思います。 また、大和ハウス工業さんはお客様のための提案をされます。相談した結果、お薦めしないというケースもあるわけです。「何でも建てます」というのではなく、「キャッシュフローがとれない、事業として成り立たないからやめたほうがよい」という答えのときもあります。そういう意味でも安心です。
地域の中小企業を支援したい
I:中小企業の経営のためのセミナーを開かれるなど、力を入れていらっしゃいます。
T:TKCの事務所ですので、むしろ會社の経営指導が強みです。中小企業の黒字の比率は全國平均で36.5%しかありませんが、當社のお客様は60%以上の會社が黒字です。TKCには月次巡回監査というものがあり、前月の試算表を翌月中頃に持っていきます。顧問料をいただいているところは基本的に毎月訪問して、お客様に直近のデータを提出します。
世の中がこれだけすごいスピードで動いているのに、昔の話をしても何のプラスにもなりません。墨田區近辺の中小企業では、資金繰りがギリギリの狀況の會社も少なくありません。納期が遅れてしまって翌月の請求になってしまうとアウトということもあるわけです。先々のことを見ながら、今どうなっているのか、3カ月前ではなく、前月のものを見ることが大切です。
例えば、前年実績から考えれば、決算月の著地點はどうなるかということを毎月話しながらやっていきます。このままいくと赤字だとなれば、前もって経費をどこで減らせるかを考えますし、利益が予定より多ければ、設備投資を前倒しにするといった話をします。そのように前々から段階を経て決算に向かっていくので、直前になって予定が狂うことはほとんどありません。會社は赤字になってしまうと融資が受けられません。先々やりたいことがあるのであれば、必ず黒字にするための指導をします。ビジネスをきちんと管理していけば、 6割のお客様が黒字になるのは難しいことではありません。そこは自信を持ってやっています。
新しいお客様を毎年20社くらい増やすつもりで頑張っていますが、去年は30社ほど増えました。私どもの事務所に移っていただくと、その後喜んでいただけます。
あるお客様の例ですが、キャッシュフローをきちんと管理していなかったために、利益が出ても消費稅などの納稅資金を現金で確保していませんでした。毎月數十萬円になる消費稅の分割払いが資金繰りを圧迫していたわけです。さらに、予定していた売上の半分くらいしかない月があり、キャッシュが完全に不足してしまいました。そこで、ある金融機関に出向き、分割で納稅している消費稅分を上乗せして借り換えました。返済期間を少し延ばしたので、消費稅の滯納分數十萬円の支払いが3分の1程度になりました。そのままだと倒産していたかもしれませんでした。これからはこうしたサポートまでやらないとだめだと思います。そういうことができるところが當社の強みです。
I:墨田區は観光スポットとしても注目されていると思います。地域のために活動されていることなどはありますか。
T:會社の規模もそれなりになってきましたので、自分の會社だけではなく地域も盛り上がるようにサポートしたいと思います。これだけの規模にさせていただいたので、商工會議所や地元の経済団體のお手伝いもして恩返ししたいと思っています。
また墨田區では、デザイナーの方の活動など、クリエーティブな新しい活動が増えてきています。例えば京島地區では古民家をリノベーションして、若い人たちが日替わりや週替わりでお店をやったりしているようです。これからさらに面白くなる地域なのかもしれません。