
賃貸住宅経営は不動産事業(7)賃貸住宅経営者として法人化する
公開日:2025/01/31
賃貸住宅経営を行う場合、個人で経営するケースと法人名義で経営するケースがあります。賃貸住宅経営を始めるときは個人経営で運営し、その後、複數棟の経営を行ったり、順調に進んだりした際に、法人稅や所得稅の観點から、賃貸住宅経営の法人化を検討する人も少なくないようです。
企業の社長として経営を行う
個人としても賃貸住宅経営を行うこともできますが、法人化し社長として賃貸住宅経営にあたることで、経営者としての意識を持つことができるでしょう。
賃貸住宅を相続した場合などは、不動産経営というよりも相続資産の管理という意識で、賃貸住宅経営を行っている人がいるかもしれませんが、賃貸住宅を相続し、収益を得ているのであれば、ひとつの事業であり、経営です。そういう意味では、法人化することは、會社の社長になることでもあり、経営者としての意識が高まることにつながるでしょう。
また、金融機関や管理會社、建築會社とのパートナーシップも、法人となっていることで、やりやすい面もあるかもしれません。
個人と法人の違い
賃貸住宅経営を個人で行う場合と法人で行う場合、お金の流れが大きく変わります。個人で行う場合は、ご入居者からの賃料は、全額が個人の収入となりますが、法人の場合はご入居者との契約を法人で結ぶことになりますので、個人で全額得ていた収益は會社のものとなるため、個人経営時とは異なり、家賃収入を全て自分のものにはできず、會社からの給料として受け取る形になります。また、法人の設立には出資を行うため、相続対象となる財産は出資した際の株式となります。
法人化のメリット
所得分散効果
土地と建物を個人で所有し、経営している場合は家賃収入から得られる所得はすべて個人1人になり、収入に応じて所得稅率が適用されます。一方、法人で経営する場合は、家賃収入は法人の利益になり、そこから給與という形で個人にお金が移動します。さらに、家族を役員にして報酬を支払えば、支払った報酬は法人の経費となり、オーナーを含め、家族に所得が分散される形となり、オーナーの所得は小さくなり、適用される所得稅率も低くなります。オーナー本人は、法人の役員になって報酬を得ることも可能ですし、役員にならずに法人に貸した土地の地代を得る形にもできます。
低い法人稅率が適用可能
役員報酬を抑えて、殘りを法人の內部留保にすることも有効です。所得稅の累進稅率と違い、法人稅の基本稅率は所得にかかわらず一定(※)ですから、個人経営として受け取るよりも、稅務面でも効果的です。
個人事業の場合、約700萬円を超えると、所得稅と住民稅を合わせた稅率は33%、900萬円以上では43%となってしまいます。
※中小法人は、平成24年4月1日から令和7年3月31日までの間に開始する各事業年度分の年800萬円以下の所得金額の部分については、稅率が15%に軽減されています。
経費計上が可能
個人よりも法人のほうが、経費として認められる範囲が広くなります。例えば、旅費交通費以外の出張手當、保険の種類によりますが、保険料なども経費として認められる場合があります。
また、個人の場合は、毎年均等に減価償卻を行わなければなりませんが、法人では任意に償卻時期を設定できます。
相続対策、事業継承がしやすい
法人を設立するとき、相続対策として評価減を図ったり、家族へ所得分散を行ったりすることがあります。今まで個人所有になっていたものを、妻や子どもを社員にして分け與えるわけです。また、法人に財産を移すと、賃貸住宅の現物の評価よりも法人にしたときの株の評価のほうが低くなりますから、これも相続対策になります。
法人化するとB/Sも変化する
個人から法人に経営を移すことでB/S上の數字が変わることがあります。例えば建物を個人から法人に移す場合の金額をいくらにするかという問題はあります。減価償卻終了後の賃貸住宅の場合、稅務上で見ると基本的に価値は1円です。
しかし、お金を生む価値のある資産を1円で移すと稅務署が問題に思うかもしれません。もう一つの目安として固定資産稅評価額があります。これが250萬円だったとします。もう一つが市場に出して売る場合の価格で、仮に1000萬円で売れるとします。1円、250萬円、1000萬円と金額の選択肢があるわけです。その中で、適正価格はどの価格なのでしょうか。
最終的には、オーナーにとって、ふさわしい手段を採ることになります。マーケット価格で個人から法人に売卻するかたちを採った場合は、お金を會社が用意する必要があります。また、中古資産を買ったことで中古の減価償卻ができるようになり、短い年度で減価償卻を取ることができます。個人と違って法人は減価償卻が任意なので、対象資産を減価償卻しない、一部のみ償卻するなど自由に決めることができます。
1000萬円を用意するのが大変であれば250萬円でもいいし、1円で売ることもあるでしょう。オーナーと稅理士で稅務署に対して「こういう価格でやったからこうなりました」と説明すればいいわけです。
あるいは不動産業者に依頼し、実際の売買実例などを検討するのも必要かと思います。
法人化した場合、BS上で資産の數字が変わるのはそのような理由があるからです。
以上のように、賃貸住宅の法人経営には稅務や相続の面などでさまざまなメリットがありますが、一方で、法人化の費用や維持費が発生します。また、タイミングも非常に重要です。
法人化を検討する際は、細部までシミュレーションをした上で決める必要がありますので、賃貸経営や相続関連に詳しい稅理士への相談をおすすめします。