わが家は大丈夫と思っていても、直面する可能性がある相続問題。
この中でも相続稅の制度はかなり複雑です。
個別に相続稅を知るには専門家に依頼する必要がありますが、
相続稅がどのように決まるかを知っていると、いざというときに安心です。
相続稅の計算手順と試算例をご紹介します。
1. 相続稅がかかる財産全體を把握
相続稅を計算するには、まず相続稅の対象となる財産を洗い出し、それらをひとつずつ評価。課稅対象となる遺産の合計金額を算出します。
相続稅の課稅対象となる財産は大きく分けて4つ
①亡くなった人(被相続人)が、亡くなった時點で所有していた財産
土地、建物、株式や債券、預貯金、現金、貴金屬など金銭に換算できるもの。
②みなし相続財産
被相続人が亡くなったことで受け取った生命保険金や退職金など。ただし、それぞれ「500萬円×法定相続人※1の數」までは非課稅となります。
③相続時精算課稅の財産
被相続人から相続時精算課稅制度で贈與を受けていた財産。
④相続開始前3年以內の贈與財産
被相続人が亡くなる前3年以內に生前贈與を受けた財産。贈與稅を支払っていた場合も、その贈與財産は相続稅の対象財産に加算され、新たに相続稅を計算した後、すでに支払った贈與稅と精算されます。
稅制改正により2024年の贈與分からは7年以內の贈與財産が相続財産に加算されることになります。
これら4つの財産を合算したものが、相続稅の課稅対象となる財産となります。
相続財産から差し引かれるもの
これらの相続稅の課稅対象となる財産から、借金や稅金等の未払い金は差し引くことができます。また、葬儀費用も差し引くことができますが、墓地や墓碑の購入費用、香典返しの費用等は差し引くことができません。
課稅対象となる遺産金額を算出
次に、相続稅の課稅対象となる遺産がいくらになるかを計算。土地の評価は路線価方式か倍率方式で求めます(「土地の評価を知るには」參照)。建物は固定資産稅評価額になるので、市町村から送付される「固定資産稅の通知書」で確認しましょう。その他の預貯金や金融資産を全て合計した金額が「課稅価格の合計額」となります。
実際の相続稅は、この合計額から「基礎控除額(3,000萬円+600萬円×法定相続人※1の數)」を引いたものが対象となる遺産(課稅遺産総額)となります。ここで、課稅価格の合計額が基礎控除額より低額であれば、相続稅がかからないことになります。
※1法定相続人
配偶者は常に法定相続人。子がいる場合は「配偶者と子」、子がいない場合は「配偶者と父母?祖父母など」、子も父母?祖父母もいない場合は「配偶者と兄弟姉妹」が法定相続人となる。
2. 財産全體に係る相続稅を計算する
課稅遺産総額が算出できたら、次に相続財産全てで相続稅がいくらくらいになるかを計算します。まずは、実際に相続した割合ではなく、法定相続人が民法で定められた相続割合「法定相続分※2」で分けたと仮定して、それぞれの相続稅を計算します。その合計が相続稅の総額となります。相続稅の稅率は、相続した財産が高いほど高くなります。相続財産の金額が同じでも、相続人が少ないと、一人當たりの相続財産が多くなり稅金が高くなります。逆に、相続人が多いと一人當たりの相続財産が少なくなり、稅金が安くなる仕組みとなっています。
※2法定相続分
- ?配偶者のみ…配偶者1
- ?配偶者と子…配偶者1/2、子1/2(子が2人の場合は、1/4ずつ)
- ?配偶者と親…配偶者2/3、父母1/3(父母の場合、父1/6 母1/6)
- ?配偶者と兄弟姉妹…配偶者3/4、兄弟姉妹 1/4(兄妹2人の場合、兄1/8 妹1/8)
3. 相続人それぞれの相続稅を計算する
納める相続稅の総額が決まったら、実際にそれぞれがいくら相続稅を納めるかを計算します。各相続人が、全相続財産のうち相続した割合を算出し、全體の相続稅にその割合を掛けます。これが、各相続人の納めるべき相続稅となります。相続財産の大半が不動産で相続後売卻しない場合などは、法定相続分どおりにはならないケースが多いでしょう。
相続稅の試算例
課稅価格の合計1億円を、配偶者が自宅8,000萬円(評価:土地7,500萬円、家屋500萬円)、 子ども2人が預貯金1,000萬円ずつ相続した場合

①課稅遺産総額を計算する

②課稅遺産総額を法定相続分であん分する
法定相続人が配偶者と子どもの場合は、配偶者は1/2、子どもは殘りの1/2を均等に分ける。

③法定相続分の相続稅を計算し、合計して相続稅の総額を算出する
法定相続分の相続稅は、速算表から計算する。
配偶者=2,600萬円×0.15-50萬円=340萬円
子ども1人分=1,300萬円×0.15-50萬円=145萬円


④相続稅の総額を実際の相続割合であん分する
実際は配偶者8,000萬円、子ども1,000萬円ずつ相続するので、相続稅の総額を8:1:1の割合で分ける。

⑤実際に納付する相続稅を計算する
あん分した稅額から各種の稅額控除の額を差し引いた後の金額を納稅。配偶者は「配偶者の稅額軽減※3」の特例により、納める稅金は0円。子どもは各63萬円ずつ納稅する。
※3配偶者の稅額軽減
配偶者は、相続した財産が1億6,000 萬円まで(もしくは、法定相続分相當額まで)であれば、相続稅はかからない。
參考:國稅庁「相続稅のあらまし」

4. 相続稅の申告?納稅をする
納めるべき相続稅が決まれば、相続稅の申告と納付を行います。これは、亡くなった日の
翌日から10カ月以內にしなくてはいけません。また、相続稅が安くなる「配偶者の稅額軽減」や「小規模宅地等の評価減の特例」※4があり、この特例を使って、納めるべき稅額が0円となっても、申告する必要があります。
相続稅の配偶者控除は大きく、配偶者が多く相続することで納める相続稅は少なくてすみます。しかし、財産を相続した配偶者が亡くなったとき、その相続人である子どもたちの相続稅額が大きくなることも考慮しておきましょう。
いざというときに慌てないためにも、どのように相続するか、その時の相続稅はいくらくらいになりそうかを概算でよいので確認しておくとよいでしょう。
※4小規模宅地等の評価減の特例
自宅の敷地を配偶者や同居親族が相続した場合、330m2までの評価は80%減額できる等
參考コラム:不動産を活用した相続稅の稅務対策~その①小規模宅地等の特例~
詳しくは、國稅庁WEBサイトを參照ください。國稅庁「相続稅」

執筆者
福一由紀
ファイナンシャルプランナー
マネーラボ関西代表。「生活に密著したマネー情報を、わかりやすく伝える」をモットーに、雑誌等のコラム執筆、各種セミナーで講師として活動中。武庫川女子大學、甲南大學 非常勤講師。
※掲載の情報は2023年5月現在のものです。內容は変わる場合がありますのでご了承ください。