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      INAXライブミュージアム「土?どろんこ館」

      土の美と心

      古(いにしえ)より、建築素材として私たちの暮らしを支える土。
      豊かな質感や趣深い意匠で住まいに彩りをもたらすだけでなく、
      日本の気候に適したさまざまな機能性を有しています。
      今回は、土に觸れ、遊び、體感できる「土?どろんこ館」を訪ね、
      その魅力や住まいへの取り入れ方について教えていただきました。

      無限の表情をもつ土の魅力を伝える

      素樸で柔らかい色合いと、砂礫(されき)の粒が感じられるざらざらとした表面。厚みのある土の壁に囲まれたその空間には、緑豊かな森の香りがほのかに漂い、まるで木陰に隠れた祠(ほこら)のように涼やかな空気が満ち満ちています。

      昔からやきものの街として名高い愛知県常滑市に、「土?どろんこ館」はあります。同館は、衛生陶器の製造?販売で知られるINAX(現:株式會社LIXIL)がものづくりの心を伝えるため創業の地に設立したINAXライブミュージアムの一つ。文化活動を通して住生活をより豊かにすることを理念に運営されています。館の內外には土の特性を生かしたさまざまな建築意匠が施されており、表情豊かな土素材の魅力を見つけることができます。

      また、同館が力を入れているのは土と觸れ合う體験教室やワークショップです。日々開催する「光るどろだんご」體験教室(下部寫真)は、やきもの用の粘土を削り、色を付け、磨いて光る土の球體をつくる、子どもから大人まで楽しめるワークショップです。また、毎年夏季に開催される「どろの遊園地」(同ページ寫真)も人気の企畫です。屋外にやきもの用の滑らかな粘土を敷き詰めた「どろ田」をつくり、全身を使って遊べるように整備しています。最初は恐る恐る足を入れていた子もいつしか夢中になり、気がつけば全身どろんこに。どろ化粧をしたり、どろで工作をしたり、五感で思い切り土の感觸を楽しんでいます。 

      主任學蕓員を務める後藤泰男さんいわく、「都市化された現代では土に觸れる機會が少なくなりました。多くの子どもが土に汚いイメージを持っています。このような企畫を通して、子ども達にはどろの心地良さや手觸りを感じてもらいたいですね」。土に觸れ、匂いを嗅ぎ、自然のもたらす素材の素晴らしさを肌で知る。そうした體験を求めて、同館には各地から多くの人が訪れます。

      土によって生み出される美しい意匠の數々

      威風堂々とした姿に土の素樸な質感が表現されている「土?どろんこ館」の外壁には、土を押し固めて作る版築の技法が用いられています。萬里の長城の城壁にも取り入れられるなど、古くから使われたこの技法は、地元の陶蕓家との意見交換を経て採用されました。320トンもの土を使用して重みによって生じる迫力を表現。樹脂や接著剤など化成品を使わず、自然素材のみで作られたこの壁には、職人達のこだわりが詰まっています。「押し固める際、丁寧に土をたたかないとすぐに欠けてしまうなど、自然物を相手にする苦労は完成するまで盡きませんでした。だからこそ、この場所でしかできない誇らしい建物を築くことができました」と後藤さん。完成すると、昔からそこにあったかのように常滑の街並みとなじむ建物になりました。

      館內に入ると目の前に現れるのは、天窓からの光を受けて黃金色に輝く「常滑大壁」(上部寫真)。離れて見るとまるで繊細な竹細工のような塗り壁の意匠は、日本らしい凜とした美しさを感じさせます。壁の弧の間の棒は、知多半島?內海の土を使用したやきものです。常滑らしさを存分に示しているこの壁は、館內におけるシンボリックな存在です。

      常滑大壁(手前)や日干しれんが(奧)など、館內ではさまざまな土壁の姿を見ることができます

      この壁を手掛けたのは左官職人久住有生氏です。「細やかな仕事の積み重ねが、その場所に緊張感を生む」と考える彼は、類まれな鏝の技術を駆使して、入隅?出隅が多いこの壁を一糸亂れぬ正確さで塗り上げています。その作業は日が落ちて暗くなってから行われました。人工の光を用い、天窓から入る光がどのように傾き反射するのかを緻密に確認しながら塗っていくためだったそうで、仕上がりの滑らかさは思わず息をのむほどです。

      一方、階段橫の壁は、一つひとつの色や形が異なる不ぞろいの日干しれんがが組み上げられています。使用されているれんがは開館前のワークショップで地元の人の手によってつくられたもの。れんが職人と左官職人の手によって丁寧に積み上げられ、柔和な丸みを帯びています。精巧な常滑大壁とは対照的な趣きが、多彩な土の表情を一層際立たせます。

      日本の気候風土に適した土壁の機能性

      土壁の魅力は意匠性だけではなく、機能性にも優れていると、後藤さんは次のように説明します。「理由は大きく三點挙げられます。一つ目は調濕機能です。濕度が高い時に空気中の水分を吸収し、濕度が低ければ水分を放出して、夏場の蒸し暑さを和らげてくれます。二つ目は通気性です。高い通気性のため、窓を開けて換気しなくても室內の空気をきれいに保ちます。三つ目が蓄熱性です。一度溫まると冷めにくい性質なので、冬はじんわりと溫まります。これらのおかげで館內の気溫?濕度差は小さく、年中過ごしやすいのです」

      寺社仏閣や古墳など日本において多くの歴史的建築物に土壁が用いられてきた理由を、「土?どろんこ館」では身をもって感じることができます。

      常滑大壁を塗る久住氏

      同館の外壁。現代においてこれほど大きな版築壁はとても珍しいそう

      やわらかい質感の階段。日干しれんが壁との対比で滑らかさが際立ちます

      時代を超えて輝きを保つタイル

      水を含むとどろになり、乾燥すると固まるなど、自在に形を変える土は、あたかも生命をもっているかのようです。その土にうわぐすりをかけたり、高溫で焼いたりすることで、土は「やきもの」として命を與えられることになります。

      耐水性や耐久性に優れ、色とりどりの輝きを放つタイルもやきものの一種です。「土?どろんこ館」では壯麗なタイルの空間も見ることができます。

      その魅力について後藤さんは次のように述べています。「タイルはメソポタミア文明の裝飾壁など數千年前のものでも當時の色彩を殘したまま出土しています。半永久的に色褪せず、美しさを保ちつづけることこそがタイルの魅力。住まいに取り入れれば、自分が生きている間だけでなく、次の世代やさらにその先まで殘すことができるでしょう」。世代を超えて裝飾を楽しめるタイルは、住む家のシンボルにもなれる、愛情を注ぐ価値のある素材です。

      優しい色合いで見る者を癒やすレストルームの壁。濃淡にばらつきのあるタイルがランダムに組み合わさっています

      緑に囲まれた姿はまるで古くからこの地にたたずんでいるよう。土臺となる盛り土部分も版築でつくられています

      土のもつ文化と溫もりが心を豊かにする

      土という自然物に人の手仕事が加わり、二つとない価値を生み出す。住まいをつくる際はぜひその価値を取り入れてほしいと後藤さんは語ります。「工業的なものだけでなく自然の風合いが殘っているものが、豊かな生活をかなえるのだと思います。館內の壁に觸れると、どこか懐かしい気持ちになりませんか」

      土を原料とする建材には、伝統や文化が刻まれています。古より親しまれてきたこの素材を現代の住まいに取り入れる。それは人々が紡いできた文化を継承するという、心豊かな暮らしの源泉になるのです。「私自身も自宅を建てる際、リビング正面の壁にこだわりのスクラッチタイルを張ったんですよ。普段から見たり觸れたりできるので、とても心が満たされます」

      ご家族の感性で選んだ土素材を取り入れると、より住まいに愛著が湧くでしょう。土壁、レンガ、タイル。土から生まれる魅力にあなたも觸れてみてはいかがでしょうか。

      體験教室の參加者がつくったどろだんご。鮮やかな色彩と美しい光沢が人々の目を楽しませます

      色鮮やかな巖絵具などが引き出しの中に。土の多彩な魅力を伝える百土箱の部屋

      土と戯れる體験教室?ワークショップ

      「土?どろんこ館」では市民に開かれたミュージアムを目指して、參加型の體験教室やワークショップを企畫しています。
      ※詳しくは「土?どろんこ館」ホームページでご確認ください。

      光るどろだんごづくり
      やきもの用の粘土と道具を使って美しいどろだんごに仕上げます。

      どろの遊園地
      滑らかなどろの感觸は、子ども達を夢中にします。

      土のパステルづくり
      産地の異なる6種類の粘土でやさしい色合いのパステルをつくります。

      Information

      INAXライブミュージアム

      https://www.livingculture.lixil/ilm/

      住所
      〒479-8586
      愛知県常滑市奧栄町1-130
      TEL
      0569-34-8282

      INAXライブミュージアム ご見學情報

      開館時間
      10:00~17:00(入館は16:30まで)
      休館日
      水曜日(祝日の場合は開館)、年末年始

      取材撮影協力 / INAXライブミュージアム

      2019年9月現在の情報となります。

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