コラム vol.064
生前に行うべき相続対策
~贈與稅の仕組み~
執筆:公認會計士?稅理士 高桑昌也
公開日:2015/02/25
ここで紹介するのは中級編で、まだ元気なうちにできる(生前の)相続対策となります。
- (1)相続財産の「評価額を下げたり」
- (2)相続財産の構成(不動産と金融資産)を「替えたり」
- (3)相続財産を生前に贈與して「名義を替える」こと
が、いわゆる相続稅対策(稅務対策)になるということは、すでに紹介しました。
不動産を買って評価額を下げたり、生命保険に入って非課稅枠を活用するというのが(1)(2)で、今回は(3)について紹介します。
贈與稅の仕組み
生前の相続対策では、相続稅のほかに、「贈與稅」というものを考慮する必要があります。贈與稅も相続稅と同じく、「累進課稅」(財産の額が多いほど稅率も高くなる)となります。贈與を受けた財産の額に応じて、次のような稅率と控除額になります。
稅金の計算式は
(贈與した財産の額―基礎控除110萬円)×稅率―控除額=稅額
となります。相続稅の算式と似ています。
相続稅の場合と同様、贈與を受けた(贈與をした側でなく、贈與を受けた側が課稅されます)財産の額が大きいか小さいかによって、稅率の額が変わってきます。
なお、計算式の中に「基礎控除」というものがあります。基礎控除は1年あたり110萬円まで認められるもので、この基礎控除を超えた金額について課稅がなされます。
(年間110萬円と金額が中途半端なのは、昔は基礎控除は年60萬円まで認められていたのですが、平成13年の稅制改正で年間50萬上乗せしようということで、110萬円になったものです)
基礎控除(110萬円)を除いた贈與財産の額 | (1)一般稅率 | (2)特例稅率 | ||
---|---|---|---|---|
稅率 | 控除額 | 稅率 | 控除額 | |
~200萬円以下 | 10% | --- | 10% | --- |
200萬円超 300萬円以下 |
15% | 10萬円 | 15% | 10萬円 |
300萬円超 400萬円以下 |
20% | 25萬円 | ||
400萬円超 600萬円以下 |
30% | 65萬円 | 20% | 30萬円 |
600萬円超 1,000萬円以下 |
40% | 125萬円 | 30% | 90萬円 |
1,000萬円超 1,500萬円以下 |
45% | 175萬円 | 40% | 190萬円 |
1,500萬円超 3,000萬円以下 |
50% | 250萬円 | 45% | 265萬円 |
3,000萬円超 4,500萬円以下 |
55% | 400萬円 | 50% | 415萬円 |
4,500萬円超 | 55% | 640萬円 |
稅率は、(1)一般稅率と(2)特例稅率の2パターンがありますのでご注意ください。平成26年12月31日までは稅率は一本化されていたのですが、平成27年1月1日以降行う贈與については、贈與する當事者の関係によって、(2)特例稅率が適用されます。
特例稅率が適用されるのは、「直系尊屬からその子?孫」の贈與となり、具體的には以下のようなケースとなります。
- ?父母から子ども(平成27年1月1日において20歳以上の方)への贈與
- ?祖父母から孫(平成27年1月1日において20歳以上の方)への贈
これ以外の場合には、(1)一般の稅率が適用されることになります。
特例稅率の方が一般稅率よりも、贈與する財産の額によりますが、5~10%ほど稅率が軽減されております。これは高齢者から若年者へより低い稅金で資産を移し、若年者の方にお金を消費してもらおうという國の政策が背景としてあります。
具體的な計算
75歳のお父さん、70歳のお母さん、會社員の息子2名(長男45歳〈満20歳の子ども1人。お父さんからすれば孫〉、次男37歳)の家庭を想定してみます。
お父さんから次男に1,000萬円、孫に1,000萬円それぞれ贈與を行うとします。
この場合の贈與稅額はおおむね以下のような計算となります。
- ?お父さんから息子への贈與財産1,000萬円―基礎控除110萬円=890萬円
890萬円×特例稅率30%-控除額90萬円=177萬円 - ?お父さんから孫への贈與財産1,000萬円―基礎控除110萬円=890萬円
890萬円×特例稅率30%-控除額90萬円=177萬円
では、お父さんから甥っ子(お父さんの兄の子)に1000萬円贈與する場合にはどうなるでしょうか。甥っ子からお父さんは直系尊屬ではないので、特例稅率は適用されず、一般稅率が適用されることとなります(なお基礎控除は甥でも利用できます)。
- ?お父さんから甥への贈與財産1,000萬円―基礎控除110萬円=890萬円
890萬円×一般稅率40%-控除額125萬円=231萬円
となり、子?孫への贈與の時と比べ、同じ額を贈與しても177萬円に対して231萬円と、54萬円の大きな差が出ることが分かります。
このような1年間に贈與を受けた金額に応じて、稅率が決まってくる方式を専門用語で「暦年方式」といいます。
一方、暦年方式とは違う概念で、「相続時精算課稅」というものがあります。相続時精算課稅は暦年方式と違った控除制度、メリットがあります。
(相続時精算課稅はやや複雑な內容ですので気になる方は、稅理士にご相談ください。)
vol.065に続く