ダイワハウスの設計士と建築家、プロダクトデザイナー、
職人などさまざまなジャンルのデザイナーが語り合い、
いい家づくりのプロセスや、これからの住まいのあり方について、
とことん深掘りしていく「デザイナーズトーク」。
第2回目のゲストにお招きしたのは、建築家の彥根明さん。
住まいづくりのヒントを端的にまとめて、建築本としては異例のベストセラーとなった
「最高に美しい住宅をつくる方法」(エクスナレッジ)の著者です。
聞き手は、學生時代に彥根さんの事務所でインターンをしていた経験もあるという、
ダイワハウス ハウジングマイスター?一級建築士の堀野健一。
場所は、彥根さんが設計された下北沢の某住宅。
お施主さまが転勤している間だけ事務所として使われているという場をお借りして、
対談インタビューを実施しました。
もと師弟関係で語り合う、デザインや美しさに対する考え方(前編)。
これからの時代に建築家が果たすべき役割など(後編)、
たっぷり語っていただきました。
Profile

彥根明(ひこねあきら)
建築家
1962年埼玉県生まれ。1985年に東京藝術大學美術學部建築科卒業(yè)。1987年に同大學院美術研究科建築専攻修了後、磯崎新アトリエ入所。1990年に彥根アンドレアと共に株式會社彥根建築設計事務所設立。1999年より東海大學非常勤講師。

堀野健一(ほりのけんいち)
大和ハウス工業(yè)株式會社 千葉中央支社 住宅事業(yè)部
設計課 主任
1983年神奈川県橫浜市生まれ。物心ついた頃から建築を仕事にすると心に決め、大學に進むと寢食の時間も惜しんで設計の勉強に沒頭する。卒業(yè)後は6年間、住宅営業(yè)の経験を経て、設計士となる。楽しんで生きることを信條とする。家族は畫家である妻と息子が1人。
一級建築士、インテリアコーディネーター、一級エクステリアプランナー。
ハウスメーカーと建築事務所、両者に求められる信頼の本質

- 堀野:すごく細かい話なのですが、先生のいくつかの作品は隠し巾木になっているなど、共通したディテールをお持ちかと思います。他にも設計事務所として共通のディテールや仕上げはありますか。
- 彥根:事務所としての共通點はかなりあります。例えばこの壁は「チャフウォール」といって、ホタテ貝を砕いたものを使っています。塗りではありますが、健康材料で、空気中の有害物質を吸著?分解する効果があります。珪藻土よりも安価で塗ることができるので「嫌いじゃなければこれがいいですよ」とおすすめしています。ただこれは、水にはそんなに強くないので、トイレやキッチンは、水に強い素材に切り替えています。そうすると雑巾がけもできるので。

- 堀野:新しい素材を意欲的に使われているのですね。ハウスメーカーで設計していると、標準仕様というのが決まっているので……。個人の事務所ですと何でも選べるのはいいですね。
- 彥根:ただ、こんな話があって。ある時、うちの事務所に來て相談していた方が、実家の母親に「何をそんな小さな會社に頼んでいるの」と怒られたらしいんです。「ちゃんとしたハウスメーカーに頼みなさい」と。
やはり一般的な認識として、名の知られた會社は安心と信頼につながる、という気持ちもあると思います。そして、それは間違っていなくて。何かことが起きた時に、大きな會社だからこそ対処できることも、なくはない。人生最大の買い物ですから。
- 堀野:先生が言ってくださったように、私たちハウスメーカーのメリットは、信頼感だと思います。なので基本的に、オーナー様も突拍子もないものを求めているわけではない。だからこちらとしてはその気持に寄り添って、オーナー様にとって居心地のいい家を提案します。

- 彥根:あと大きなハウスメーカーでも建築事務所でも、いずれの場合にせよ、経験値は大切ですね。何かことが起きた時の予防ができないまま進めていくと「こんなはずじゃなかった」となる場合もあると思う。
なので先ほどから堀野さんも仰っている通り、お客さんにちゃんと説明できているか。納得の上で選んでもらえているか、この繰り返しを丁寧にやっていかないといけないと思います。 - 堀野:そうですね。まずは信頼を得て、基本をしっかりとつくって、その中でプラスアルファ、ちょっと自分らしい家がつくりたい、こだわった感じにしたいという方だといいですね。せっかく縁があって出會えたオーナー様なので、ダイワハウスという名前だけじゃなく「設計の堀野さんとできたからよかったよ」と思ってくれればうれしい。実際にできあがるのは住宅だけでなく、人間関係も育まれるのがこの仕事の魅力です。
これからのスタンダードにしたいテクノロジーとは

- 堀野:私どもの場合は「環(huán)境アイテム」といって、エコ発電や災害時の蓄電池などを推し進めようという話があります。あとは、通信で使われる5GやIoTを家に活用するといった、最先端の話があったり。そういう便利な未來に対する憧れはあると思うんですけど、個人的にはアナログな、人間らしい感覚も忘れないで家づくりができたらいいなと。先生は、新しいテクノロジーに関してはどう思われていますか。
- 彥根:そうですね、何でも機械やネット経由で操作できるのをやり過ぎると、システムの弱い部分が落ちたら大変なことになるというのは充分予期しておく必要がありますね。できればスイッチは自分でつける、などの方が個人的には好きですけども。
それより僕が大事にしなければいけないと思うのは、「環(huán)境性能」。原始的ですが斷熱などです。斷熱をしっかりするだけで、使うエネルギーは全然違ってきますから。例えばこの家なんかも、2階はエアコン1臺です。実は床に「イゼナ」という蓄熱の暖房も入っているんです。 - 堀野:床暖房とは違うシステムなんですか。

- 彥根:床暖房に近いですけど、最高溫度は35度で體溫よりも低いくらい。だけどものすごい快適ですよ。「暖かい」というより「家のなかで寒い場所がない」狀態(tài)になります。部分的に溫めるより全體の溫度を均一化し、時間による変化もおさえていく考え方の方が、無駄がなくなる。でもそれは原則として、家中の斷熱がしっかりされていることが必要。
- 堀野:ということは、構造が見えている屋根の上に斷熱材が入っているんですか。
- 彥根:そうです。これはお客さんの希望もあって、構造體、架構が全部見えるようにしたいという要望があったので、その上に桟を置いて、かなり厚い斷熱を入れています。
- 堀野:空間と斷熱をどちらも両立できるよう工夫されているんですね。私たちも居心地のいい空間をつくりだせるよう、窓が大きく天井が高い家を提案していますので、その分斷熱には相當力を入れています。複層ガラスで、充填斷熱のグラスウールと外張り斷熱を併せて採用しています。
- 彥根:斷熱性能が高い家は夏場の省エネルギーにも有効なので、これからのスタンダードとして優(yōu)先させたいですね。
未來の住まいや世の中のために、設計者ができること

- 彥根:あと先ほどの「人間らしい」という話で言いますと、最近の傾向として、都市型の密集地の住宅が外に閉じて、內側で完結するつくりがすごく増えているんです。それは外観もかっこよくまとめやすいですし、悪いことではないと思います。
けれどそれによって、コミュニティが希薄になってしまうところもある。例えばご近所さんの異常事態(tài)に何ヵ月も気づかないといったことは、いろんな要因があるでしょうけど、家のつくりが関係してないともいえない。居心地はいいけれども外に閉じた家の中で、自分のプライベートは充足できるかもしれないけど、外側に関しては無関心……というのはどうかと思うので。
- 僕はできれば、きちんと近隣との関係が生まれるような住宅の提案をしたい。我々設計者がそこの意識をちゃんと持ってやらないと、世の中がすさんでいくのを助けてしまうことになってしまう。

- 堀野:なるほど。最初に伺った、「美しい家とは、いかに外との関わりをつくれるか」という話にも通ずる考え方ですね。外に閉じた家をオーナー様から望まれればそうせざるを得ないというのがあるにしても、自分の中でどこか線がある、と。
- 彥根:そうですね。言われた通りにつくればいいというだけじゃなくて。人として譲れないと思う點があったらお客さんと話し合ったり。こちらの言い分を押し付けるようなことがあってはダメだけど、設計って、暮らし方の価値観を納得行くまで話し合う作業(yè)でもあると思うので。
- 堀野:オーナー様の要望にもしっかり応えながら、人としての本質を大事に。これからの暮らしのあり方をちゃんと考えて、設計の力で街や世の中を変えていこうとされる姿勢は僕も共感しますし、そうありたいと思いを強くしました。本當に今日はありがとうございました。

まとめ
美しさや正しさ、人間らしさへのゆるぎないこだわりを持ちながら、住み手の要望に対し柔軟に対応し、解決していく姿勢。そのバランス感覚こそが彥根さんの真骨頂であり、また私たちが知っておきたい、住まいづくりの要でもあるのでした。
デザイナーズトーク