鳥取県?巖美町にある巖井窯は
陶蕓家?山本教行さんが
1971年に開いた窯元です。
10代の頃から、
自分が心地よいと思う暮らしを求め続ける
山本教行さんにお話をうかがいました。
2024.12

陶蕓家?山本教行さん。自分の好きに忠実に、ものづくりと真摯に向き合い、暮らしを重ねて60年ほど。「今もまだやりたいこと、ワクワク感がいっぱいあるんだよ(笑)」
山を背に広がる、靜かで穏やかな空間。
クラフト館 巖井窯へ

中庭越しに望む參考館と喫茶HANA。木々に褐色の瓦が映える。庭に置かれた甕には蓮が植えられている。
谷川のせせらぎを耳にしながら門扉をくぐり、詩人?書家の坂村真民による陶板に迎えられてエントランスへの坂道を上ると、広々した中庭が現れます。蓮が植えられた甕が心地よく配され、中央には大きな石。それを見守るように數棟の建物や窯が並び、すっきりとした心地よい雰囲気に包まれます。
巖井窯は1971年、山本教行さんが22歳で開いた窯元です。鳥取の民藝運動の中心人物であった醫師?吉田璋也と出會い、師事したのが16歳のとき。高校3年のときには、來日したバーナード?リーチに會いたい一心でヒッチハイクで東京まで行き、知己を得たそう。坂村真民に會いに愛媛?松山を訪れ、偶然の導きで自宅に招き入れられたことも。あふれる情熱と行動力、そんな山本さんが生涯を通じて見つめているのは、好きからつながる自分らしい暮らしです。
「民蕓どうこうではなくて、暮らしの中で僕は自分の目に入るものは、自分が気に入るものじゃないとだめなんです。僕が選ぶ基準は人や世間の評価ではなくて好きかどうか。好きなものは気持ちがいい。自分の好きなものが目に入ると、誰だって気持ちがいいでしょう? 常にそうありたいと思ってきました」
今の巖井窯の姿も、実は山本さんが42歳のとき、大雨水害に遭い工房も窯も流された後、ゼロからつくったもの。「若い頃、自転車で韓國を旅行したときに見た地主さんの家がこんなふうに庭を囲んでいて、いい気持ちでね。それで、いつかつくりたいなって思っていた。いい機會だと思って(笑)」。そこから8年の歳月をかけてつくり上げ、1998年にクラフト館 巖井窯として開館しました。
好きなものが集まる參考館で
山本さんのものを見る目に觸れる

山本さんが長年集めた國內外、古今の工蕓品を展示した參考館。年に3~4回展示替えされる。 ※要入館料

200年前の椅子なども。「椅子が好きなんですよね。どういう人がつくったのか、使っていたのかを想像すると、本當に面白いんですよね。ものっていうのはそういう一つのメッセージを持ってるんです」

南北に大きな窓があり、中庭に面した南側は明るく心地よい風景、山に面した北側(寫真)はわびさびを感じさせる靜かな気配。それぞれ異なる趣で美しい。
參考館では広々した空間に古今東西のさまざまな工蕓品が展示されています。どれも山本さんが、心から手に入れたいと思ったもの。「高価なものとか珍しいものという価値観ではないんです。見たら『これは俺を待っている!』って思っちゃう(笑)。僕が好きで、僕でも持てる、そういう出合いがあったものだけです」
「ものは単にものではない」と言う山本さん。たとえば、若い頃に吉田璋也の元に集まった先輩たちと行った骨董店で大奮発して手に入れたもの、作品展が終わってできたお金をそのまま持參して買い求めたもの、あるいは先輩宅にあるのを何度も何度も見に行き、しまいに譲り受けることができたもの、また、旅先で目にしてどうしても気になったもの…。そんなさまざまな縁をつないだものたちは、ここを居場所に、どこか伸び伸びと、生き生きとした表情で並んでいます。
こうした工蕓品は山本さんや窯の陶工の貴重な資料にもなっています。「実際に觸れて體感する、実感するということは一番の勉強になると思っています」。そしてまた、訪れた人にとっても美しい目を持つヒントとなりそうです。


うつわや壺、絵、書などから椅子や家具など、さまざまな工蕓品を収蔵。

參考館の2階には山本さんの若い頃の作品が収められている。創作へのあくなきパワーを感じる空間に。
今日を最高の日に。
今を大事にして生きること

「吉田先生でもリーチ先生でも、先生方が偉かったと思うのは10代の僕のことを、馬鹿にしないできちんと受けて止めてくれたこと」
吉田璋也の薫陶を受けながら、そこで自らの美しさの基準を持った山本さん。窯も、建物も、ないものはとにかく自分の手でつくり、ひたすらものづくりに、暮らしに向き合ってきました。そこに人の評価は求めなかったと言います。
「だから努力はしないの(笑)。好きなことって努力じゃない。頑張ってこれを手に入れたとか、この地位をもぎ取ったとかではない。好きなことをしてるだけ。自分が好きなことをしてたら、こうなった。人と比較したり、世の中の評価に関係なく、やっぱり自分自身の世界を持っていたっていうのが良かったのかもしれませんね」
自分の體感のみを信じ、経験を重ね、ゆるぎない創作を続けてきた山本さんの元には弟子入りする陶工はもちろん、さまざまな作家や職人、そして世代を超えた人々が集まってきます。支えられた地元の人々に感謝して冬迎えや花見などの集いを開催したり、また、參考館では落語會や音楽ライブ、映畫上映會などのイベントを開いたり、暮らしの中の楽しみを提案しています。
「僕の先生方を見て感じてるのはね、究極の言葉は『只(ただ)』。この言葉に凝縮されていると思うんです。普通のこと、特別でないこと。ただ、今、ここに居ることの喜びやら価値やら、それらを大事に生きたいなってね。明日でなくて昨日でなくて、今日が最高の日なんです」
作品展示室でうつわに出合う。
一つのうつわを「ものさし」に

工房に併設された作品展示室。喫茶HANAのランチで使われているうつわや箸置きなども。
作品展示室では山本さんや巖井窯の作品が展示?販売されています。貴重な伊賀の天然土を使った土鍋シリーズや掻き落としの技法を使った白い牡丹文シリーズ、表情の変化が楽しい塩釉ものなどが並びます。
「たとえば土鍋を一つ手に入れるだけでもね、暮らしは変わりますよ。前にね、派手な身なりの若い子が何かのきっかけで土鍋を手に入れて。そしたらね、これはバイクや車、ファッションと並ぶものじゃないということがわかったと言うんです。じゃあ何かというと、おいしい! ってこと。體感することで考え方や暮らしが変わることってあるんです」
そして、體感することで自分の「ものさし」を持ってもらえたら、とも。「自分が美しいと思ったものを一つ手に入れるでしょう。『ものってそうか、自分の體の一部になるんだ』ってことを體感するとね、それが基準になっていく、ものを選ぶ『ものさし』になるんですよ」
「ちょっと頑張っていただく価格帯ですと、まず大事にする、長く使う。土鍋なんかも直して使うようになります」。そして土鍋を使ううちに次はそれに合うスプーンを、土鍋を置くテーブルを、テーブルに合う椅子を、と広がっていく。そこから自分らしい、美しい暮らしが始まると言います。

「白い土を煮こぼれやすすが目立たないように黒く仕上げているんです」。土鍋は原料の土がもう手に入らず、數を限定して制作するため希少な作品に。クラフト館 巖井窯や作品展でのみ販売。

大きな耳は、民蕓品のメキシコの鍋からインスピレーションを得たそう。
上から時計回りに両手付平土鍋33,000円、耳付土鍋6寸7,700円、耳付土鍋4寸5,500円、ミルク沸かしピッチャー丸形13,200円、いずれも山本教行作品。

伸びやかでおおらか、モダンな空気感が漂って、すぐに使ってみたくなるうつわたち。
上から時計回りに白牡丹文の灰釉搔落牡丹柄リム付鉢33,000円、黃釉掻落楕円皿6,600円、白掛線描赤絵耳付楕円鉢(中)13,200円、いずれも山本教行作品。


掻き落としがアクセントのポットと、思わずこれで飲んでみたい! と思わせるビアマグも。
(上)ポット24,200円(下)塩釉ビアマグ各18,700円、いずれも山本教行作品。
クラフト館 巖井窯
鳥取県巖美郡巖美町宇治134-1
tel. 0857-73-0339
10:00~16:00 月曜?火曜休み
※祝日は開館
※臨時休館、営業時間の最新情報はSNSでお知らせしていますのでご確認ください。
https://iwaigama.com/
https://www.instagram.com/iwaigama/?hl=jae
※表示価格は消費稅込み2024年12月現在。
詳しくはクラフト館 巖井窯のウェブサイトをご確認ください。