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特集:「働き方」のウェルヒ?ーインク?を考える
2025.1.31
仕事や家事に追われるうちに、気づけば1日が終わっている。スマホでSNSはチェックするけれど、そういえばめっきり本を読まなくなった。そんな昨今の働き方、生活習慣を、著書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で言語化した文蕓評論家の三宅香帆さん。多くのビジネスパーソンの共感を呼び、現在23萬部突破のベストセラーになっています。
三宅さんは本書を通して「全身全霊をやめて、半身で働こう」と提言しました。「全身全霊」で取り組むことは美徳と考えられがちですが、三宅さんは「半身」の働き方を當たり前にすることで、それぞれの人生が豊かになり、他者も尊重できる——まさにウェルビーイングな狀態に近づくのだと語ります。
私たちはこれからどんな働き方を目指すべきなのでしょうか。今回の特集「働き方のウェルビーイングを考える」について、三宅さんとともに掘り下げます。
三宅さんが『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を書いたきっかけには、自身の體験があったと言います。社會人一年目、人材會社で勤務する中、大好きな本を読めなくなっていることにふと気づきました。
「朝9時頃に出社して、夜8時頃に退社し、暦通り土日は休むといった一般的な働き方をしていて、特にハードワークだったわけではありません。それでも、元々好きだった海外文學や古典に手が伸びなくなっていました。SNSをチェックすることはできるのに、頭が本を読むモードにならないんです。社會人になると、好きなことに時間を割くのがこんなに難しいのかとショックを受けました」。
學生時代は文學を研究し、好きな本をたくさん買うために就職したといってもいいほど、読書家だった三宅さん。會社を退職し、フリーランスという働き方を選択、「本を読める生活」を選びました。
こうした経験をインターネット上に綴ると、多くの共感が寄せられます。「好きなバンドを追いかけられなくなった」「好きだった美術館にめっきり行かなくなった」……。三宅さんはさまざまな反響を通して、今の日本社會では、労働と文化的な生活を両立しづらい狀況にあると感じたのです。
では、働いていると文化的な生活を営みづらくなるのはなぜなのでしょうか。三宅さんは、現代の労働が、労働以外の時間を犠牲にすることで成り立っていると考えました。そこで提唱するのが「全身全霊をやめて、半身で働く」ことです。
「2023年に放送されたNHKの『100分deフェミニズム』で、社會學者の上野千鶴子先生が女性の働き方を『半身で関わる』と表現していました。男性は全身全霊で働きやすいけれど、女性は身體の半分が家庭、もう半分が仕事にある、と。私はそれを聞いた時、むしろ男女ともに半身で働くほうが理想的だと思ったんです」。
そもそも、仕事に全身全霊を捧げられるということは誰かのサポートがある場合が多いと三宅さんは指摘します。専業主婦?主夫世帯よりも共働き世帯が多い現代では、その働き方は難しいといえるでしょう。男女それぞれが、半分を仕事、もう半分を育児や介護、趣味、副業などに使えたほうがいい、と続けます。
「週5、フルタイム勤務、殘業ありで働くことが、正社員の必須條件のようになっていますが、時間で規定せず、成果で給料を支払うという発想がもっとあっていいはずです?!簳r短勤務』という言葉にも私は違和感がありますね。もちろん、全身全霊な働き方を否定しているわけではないですし、私も全身全霊で働く時期はありました。ですが、全ての人にとってのスタンダードではなくてもいいのではないか、と思うんです」。
また、半身で働くのは、決して"楽をする"ということではありません。
「一つのことに集中できる『全身全霊』のほうが、むしろ楽な面があると思います?!喊肷怼护坤趣浃毪长趣啶?、仕事を早く終える必要があります。つまり同じ量の仕事を半分の時間で頑張らないといけない。さらには、仕事以外で自分の役割やアイデンティティを見いださないといけないから大変です。でもその労力をかけても、全身全霊から半身へシフトしていく必要があるのではないでしょうか。育児や介護と仕事をどう両立するのか、少子化や労働人口の減少とどう向き合うのか。そうした日本の課題を解決するには、半身で働くことが當たり前の『半身社會』を実現したほうがいいと思います」。
昨今、忙しい日々を送る人たちに、「本を速読する」「映畫を早送りで見る」といったタイムパフォーマンスの良い情報収集が求められています。そんな風潮の中、三宅さんが重視しているのは、「短期的に見ると何の役に立つのかわからないもの=ノイズ」です。
「効率化を図る中で、自分が今知りたいことの周辺知識や背景にある文脈を、余分な情報だとして省いてしまうことがありますよね。私はそういったものを『ノイズ』と稱しています。私自身、會社員時代に"仕事に関する本"であれば読めたんです。でも、今すぐ必要な情報や知識だけを入手していると、自分が本當に興味のあるものを発見しづらく、人とは違う得意分野もなかなか生まれません。あえてノイズを取り入れることも大事なのではないでしょうか」。
ノイズを取り入れる余裕のある社會は、三宅さんにとっては「働きながら本を読める社會」。つまり自分の関心事や、長期的な視野で勉強したいことに取り組む時間を持てる社會と言っていいかもしれません。
「近頃、読みたい本を読めているか、見たい映畫を見られているかということは、自分が今ウェルビーイングな狀態にあるかどうかのバロメーターの一つにもなると思います。そうはいっても、個人としては目の前の仕事に追われ、十分な時間が取れない場合も多いでしょう。やはり社會全體で働き方や時間の使い方について議論できるといいですね」。
三宅さんは自分の感情を大切にしてほしいと話します。
「臨床心理士の信田さよ子さんの『家族と國家は共謀する』という本で、仕事一筋だった60代、70代の男性が、自分の感情を言語化することが苦手だったりすると書かれていました。仕事をする中で、感情を脇に置かなければいけないこともあるでしょう。でも仕事のために自分の感情を麻痺させると、次第に他人の感情にも鈍感になってしまうかもしれません。さまざまなハラスメントの問題も、実はこうしたところから來ているのかもしれません。一人ひとりが感情を大切に、自分の人生そのものの優先順位を上げられるといいなと思います」。
文蕓評論家。1994年、高知県生まれ。京都大學大學院人間?環境學研究科博士前期課程修了。大學院在學中から文蕓評論家として活動し、2017年に『人生を狂わず名著50』を出版後、大手人材會社に就職し兼業作家となる。『文蕓オタクの私が教える バズる文章教室』『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』などを執筆した後、2022年に獨立。2024年発売の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、23萬部を超えるベストセラーに(2024年11月時點)。
大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。
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