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連載:未來の旅人
2025.1.31
「介護」は、家族がいる人であればいつか必ず経験するものです。家族で介護することが當たり前だと考え、仕事や生活の時間を削って介護に充てるという人も少なくありません。
しかし、「それでは精神的にも身體的にも負擔が大きく、介護はつらく苦しい経験で終わってしまいます」と話すのは、「NPO法人となりのかいご」代表理事の川內(nèi)潤さん。介護の現(xiàn)場で働き「このままでは介護する側(cè)もされる側(cè)も幸せにならない」と感じたことがきっかけで、企業(yè)での介護セミナーや介護相談を通して介護に対する意識を変えていく活動を続けてきました。
川內(nèi)さんは、「至れり盡くせり、すべてをやってあげることが良い介護ではありません。親との距離を取り、できることしかやらない『親不孝介護』こそが、本當の意味での良い介護です」と一石を投じます。私たちの思い込みを解消するその言葉の真意と、これからのサステナブルな介護のあり方とは?
日本は、2025年には65~74歳の前期高齢者人口が1,497萬人(國民の約3人に1人)、75歳以上の後期高齢者人口が2,180萬人(國民の約5人に1人)に達すると予測されています。これは、世界でもトップクラスの超高齢化社會です。加えて、核家族化や人口減少、地域コミュニティの弱體化など、社會のありようは數(shù)十年前と大きく変化しました。
にもかかわらず「親の介護は子どもがするもの」という昔ながらの価値観が、今も介護のあり方を決定づけています。
「私たちは、自分の親が祖父母にしたように介護ができるし、やるべきだと思っている。でも社會構(gòu)造が変わってしまった以上、同じようにすることはできません。だから、自分の生活やキャリアを大事にした上で、できる介護の範囲がどれぐらいなのかをしっかり考えてもらいたいんです」。
川內(nèi)さんは必ず「介護が始まっても、自分の仕事や生活を削るのはやめましょう」と伝えています。
「介護は解像度を上げれば上げるほど『あれもこれもしてあげなければ』とタスクが際限なく増え、気づけば介護にどっぷり……という悪循環(huán)に陥ってしまいがち。仕事と介護の両立は想像以上に大変です。子育てであれば、成長の実感や喜びを得られますが、介護は親の"できなくなる"姿を直視しますから、相當しんどい。それに『いつまで続くのかが分からない』つらさもあります」。
一方で、「生活を削りたくないのは山々だけど、そうは言っても無理なのでは……」と感じる人も多いのではないでしょうか。
「日本では『老いの受け止め』の教育を受けておらず、そう感じてしまうんです。老いていけばできないことが増えるのは自然なことで、むしろ受け入れられない私たちの意識に課題があると考えたほうがいいと思います」。
そのためにも大切なのが、外部の介護サービスや介護のプロの力を積極的に頼ること。そして「親との距離を取る」ことです。
「親が本當に困る前に介護タスクをこなすと、至れり盡くせりになってしまって外部の介護サービスを使わなくなるんです。それに、子どもは親に『ちゃんと健康的な食事をしてほしい』『毎日掃除してほしい』と思っていても、本人は今の生活でも幸せなのかもしれない。子どもが自分の不安を解消するために、親の安心?安全しか考えない介護になっているのか、ちゃんと親の幸せを考えているのか、一度考えてほしいんです」。
川內(nèi)さんが介護業(yè)界に身を投じた20代の頃、多くの家庭を介護で訪れるうちに、複雑な思いを抱くようになります。
「訪問入浴で寢たきりの方をお風呂に入れるサービスをしていたのですが、家族が疲れきって追い込まれている姿を目の當たりにするんですね。怒鳴ったり、手をあげている姿も何度も目にしました」。
「休んでください」と聲をかけても、その時には周囲の聲はもう屆きません。「放っておいてくれ」という言葉を投げつけられたきり、心を閉ざされてしまうこともあったそうです。八方塞がりに陥るもっと手前で、介護への向き合い方を誰かが伝えなければいけないのではないか——。川內(nèi)さんは誰でも自然と向き合える家族介護の普及や啓発を目指して2008年に「となりのかいご」を設(shè)立しました。
2014年にはNPO法人化し、企業(yè)と顧問契約をして、社員向けに介護に関するセミナーや相談を?qū)g施するようになりました。その必要性を認識する企業(yè)は年々増え、現(xiàn)在は8社と顧問契約を結(jié)んでいます。
「企業(yè)側(cè)としても優(yōu)秀な人材の"介護離職"は深刻な問題です。それまで最前線で働いていた人が、親の病気を理由に突然抜けるわけですから。だったら介護の當事者になる前に、介護について、無理矢理にでも知ってもらわないといけない。そこで企業(yè)の社內(nèi)研修として、半ば強制的にセミナーを受けていただき、社內(nèi)で気軽に介護相談ができる仕組みもつくっています」。
提供:テルモ株式會社
こうして當事者となる手前で介護を?qū)Wび、「仕事を辭めなくていい」「自分の時間を削らなくていい」という認識を當たり前にしていく取り組みを進めています。
今では多くの企業(yè)が介護に関する福利厚生の制度を充実させています。ですが、川內(nèi)さんは「時にはその制度が逆効果になってしまうことがある」と指摘します。
「もちろん、制度設(shè)計の大切さは痛いほど理解しています。ですが、介護休暇?休業(yè)制度をつくることも、介護のために新幹線通勤を認めることも、介護理由ならテレワークの上限を撤廃することも、裏を返せばすべてが『家族が近くにいて介護することが、親のためである』というメッセージになりかねません」。
その結(jié)果、制度が充実すればするほど、仕事の時間を削って介護をしようとする人が増えていきます。
「それが仕事と介護の両立や働きやすさに本當につながるのかどうか、企業(yè)はもう少し丁寧に考えないといけないのではないかと思います。やはり『介護は家族がするもの』という意識そのものを変えない限り、いくら相談窓口を充実させようが社內(nèi)の制度を充実させようが、両立には向かないんです」。
そしてもう一つ、川內(nèi)さんが懸念しているのは、介護が終わった後の喪失感や後悔が、一生懸命介護をした人ほど大きいということ。頑張れば頑張っただけ介護タスクは増えて、ある日突然、それが果たせないまま終わってしまう。「ああしておけば良かった」と自分を精神的に追い込んだり、怒鳴ったり手をあげた経験のある人は、介護が終わった瞬間になんてことをしてしまったのだと強い後悔の念に駆られます。
「全力で頑張っても後悔はゼロにならないどころか増えてしまう。だから絶対に無理をしたらダメなんです。良い介護とそうでない介護の境目がどこなのかをずっと考えています。現(xiàn)時點での答えは、家族の関係が良好であればそれを良い介護だと表現(xiàn)していいということ。なにより大事にすべきなのは、どれだけたくさんのタスクをこなすかではなく、お互いの関係が良好であり続けることだと思います」。
改めて、川內(nèi)さんが考えるサステナブルな介護とはどのようなものでしょうか。
「家族が疲れきって倒れたり、メンタルを病んでしまっては持続可能ではありません。自分の生活をなるべく大事にして、"一生懸命関わらない"介護が、本當の意味でのサステナブルな介護だと思います。介護は就職や結(jié)婚、出産と同じように、人生のライフステージの中で誰もが経験する出來事です。だからこそ、むしろキャリアパスの一環(huán)と捉え、より良く生きるきっかけにしていってもらいたいですね」。
社會福祉士、介護支援専門員、介護福祉士。1980年生まれ。上智大學文學部社會福祉學科卒業(yè)後、老人ホーム紹介事業(yè)や外資系コンサルティング企業(yè)勤務(wù)を経て、在宅?施設(shè)介護職員に。2008年に市民団體「となりのかいご」設(shè)立。2014年にNPO法人化し、代表理事に就任。家族介護による介護離職や高齢者虐待をなくし、誰もが自然に家族の介護に関わることのできる社會の実現(xiàn)を目指している。著書に『もし明日、親が倒れても仕事を辭めずにすむ方法』、『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』、『親の介護の「やってはいけない」』などがある。
大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現(xiàn)に向け、様々な取り組みを進めていきます。
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