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コラム No.28-17

CREコラム

今さら聞けない「不動産証券化」(17)ノンリコースローンについて

公開日:2018/08/30

不動産証券化は、主にSPC(特別目的會社)を設立して実行しますが、設立當初は資金が不足しているので、事業を開始するための軍資金を集める必要があります。SPCはできるだけコストをかけずに有利な條件で資金を調達しようとします。今回はその資金調達手段の一つである「ノンリコースローン」を取り上げます。

遡及しない融資?

ノンリコースローンの「リコース」は、「遡及する」という意味です。過去のある時點までさかのぼって、法律や條件を適用したり當てはめたりすること。ここではローン(融資)に係わっているため、否定の接頭語である「ノン」を付ければ「遡らない融資」の意味になります。しかし、これでは何のことかわかりません。
わが國では通常、銀行融資は差し出した擔保を売卻しても返済金が殘っていれば、返済は終わりません。完済するまで返済を迫られます。こうした形の貸付方法は「リコースローン」といいます。遡及する融資です。つまり、通常のローンは、借りた人や會社の全財産が返済の原資になっているのです。これに対して「ノンリコースローン」は、返済原資を限定しています。不動産証券化における「ノンリコースローン」は、SPCを設立する際の出資金やオリジネーターの保有する不動産を購入するための代金を調達する際に利用されます。

ノンリコースローンの仕組み

SPCの獨立性を認めるローン

不動産証券化は、オリジネーターの財務狀況にかかわらず、保有不動産の価値が生み出す収益に著目した金融手段です。SPCは銀行などの金融機関とノンリコースローン契約を結びますが、銀行はSPCが萬が一倒産しても、そのリスクをオリジネーターに負擔するよう要求する( 遡及する)ことはできません。このことからわかるように、ノンリコースローンは対象となる不動産(モノ)に対する融資、SPCを借り入れ主體とした不動産証券化という「仕組み」に対する貸付と解釈できます。ノンリコースローンが「仕組み金融」(ストラクチャードファイナンス)の一つといわれるのは、こうした性質があるからです。
ノンリコースローンはSPCの存在を認めることで成り立っている金融ツール、と言い換えることもできるでしょう。しかしSPCの獨立性が前提になっている融資ですが、同時に一定の制約も受けます。ノンリコースローンを受けている期間中は、借入先銀行の同意がないままに解散することはできませんし、不動産の管理方式を勝手に変更することはできません。このため、SPCの役員は借入先に対して(SPCの)倒産を申し立てないという誓約書の提出を求められます。これは、SPCがリスクを負わないようにするための倒産隔離策の一環です。 

また、銀行などの借入先はSPCに対して融資を行う際に、一定の條件を付けます。モニタリングをするために決算書を毎期ごとに提出してもらったり、純資産を一定額は保持するよう求めたりします。こうした財務上の制限條項を「コベナンツ(Covenants)」といいます。コベナンツは契約する、誓うという意味です。

ノンリコースローンのメリットとデメリット

ノンリコースローンは、不動産という「モノ」に対する融資で、結果的にSPCを通じて資金を調達したいオリジネーターにとっても、財務狀況に左右されることがないので、実現可能性の高い資金調達手段といえます。また萬が一、融資対象で擔保である不動産の価値が下がり収益性が低下した場合でも、追加の返済は発生しないメリットがあります。つまり、殘債がある狀態の「オーバーローン」にはならないというわけです。反面、ノンリコースローンは返済原資を限定するので、対象となる不動産の価値を算定する目は厳しくなる點がデメリットです。物件に対するデューデリジェンス(資産査定)によって、金利は高くも低くもなります。銀行サイドから見れば、返済原資は物件の収益力にあるわけですから、當然です。一般的に、ノンリコースローンはリコースローンと比較して金利は割高でしょう。

リーマン?ショックの引き金にもなった

不動産証券化が今後拡大?発展していくためには、ノンリコースローンの普及が欠かせないでしょう。それは、証券化が不動産の価値に著目して実行される資金の運用?調達手段であり、ノンリコースローンは証券化の特性を最大限に生かした融資商品だからです。近年、メガバンクなど大手の銀行は、貸付先の減少に苦しんでいますが、その解決策の一環としてノンリコースローンをはじめ「仕組み金融」(ストラクチャードファイナンス)を個人分野にまで広げてきています。
ただ、ノンリコースローンは適切に扱わなければなりません。それは、過去に苦い経験を味わっているからです。2008 年に起きたリーマン?ショックは、米國のサブプライムローンが発端でした。低所得者用の住宅ローンであるサブプライムローンは回収リスクが高いため、高いローン金利でした。仮に返済できなくても、擔保になっている土地の価格が上がれば返済可能だとして売り出されたのが、サブプライムローンです。
この高金利のサブプライムローンの債権を擔保にして証券化されたのが資産擔保証券で、CMBS(Commercial Mortgage BackedSecurities=商業不動産擔保証券)といわれるものでした。つまり、サブプライムローンは一種のノンリコースローンであり、ノンリコースローンをファンド化した証券化商品がCMBSなのです。
CMBSはそこから次々と錬金術のように、サブプライムローンで擔保になっていた土地を媒介として重層的に新たなCMBSを作り出し、最後には商品の擔保が迷路のように複雑に入り混じって債権債務関係が修復不能になり、紙くずと化しました。CMBSはリーマン?ショック以降、現在ではほとんど姿を消しているといわれますが、ノンリコースローンも亂発して不動産市場を混亂に陥れることのないよう、適切な運用が求められます。

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