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コラム No.53-37

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戦略的な地域活性化の取り組み(37)政令指定都市におけるエネルギーの地域循環の取り組み事例

公開日:2021/05/21

前回に続き、地域特性に合ったさまざまな公民連攜手法で、エネルギーの地産地消により地域循環共生圏の形成に取り組む事例をご紹介します。

自治體と企業連合が連攜した取り組み事例 ~靜岡県浜松市~

浜松市は、靜岡県西部、遠州地方に位置する政令指定都市で、人口約79.8萬人の靜岡県最大の都市であり(浜松市統計情報 令和3年4月1日現在)、國內有數の自動車産業、楽器産業の集積地でもあります。また、江戸幕府創立前に、徳川家康が青壯年期を過ごした地であることから、浜松城は出世城とも呼ばれ、その気風は「やらまいか(やってみよう/やってやろうじゃないか)」精神として現在でも市民の間に息づいています。
その浜松市は、工業都市であることから電力依存度が高いため、2011年の東日本大震災後、電力の安定供給に対する懸念が全國的に高まったことを受けて、2012年には「新エネルギー推進事業本部」を設置、翌2013年には「浜松市エネルギービジョン」を策定し、エネルギー不安のない強靭で低炭素な社會「スマートシティ?浜松」実現を目標に掲げて、いち早く地域における電力の持続的な安定確保に動きました。そして、2015年に、自治體や地域金融機関、公共交通機関、市內外の企業が共同出資し、再生可能エネルギーの活用、電力の地産地消を目的とした株式會社浜松新電力が設立されました。
浜松市は、日照時間が長く雪が降らないという溫暖な気候に恵まれ、安定的な太陽光発電に向いており、また設備の設置に適した平地が占める割合も高いという好條件が揃っています。特に縮小傾向にある浜名湖周辺のウナギの養殖場跡地の利活用として太陽光発電が促進されたことで、全國的にもトップクラスの太陽光発電地域となっています。加えて、市內の清掃工場でのバイオマス発電量も大きく、これらの電力を地域內の公立小中學校や公共施設、民間企業に供給することで、現在では地域內で生産した電力エネルギーの約80%を地産地消するという大きな成果を生み出しています。
また、金融機関との提攜による太陽光発電設備等に対する低金利融資制度の新設や、小中學校への太陽光発電パネルの設置を促進するなど、地域産電力の開発に力を入れており、今後は、脫炭素社會に向けた市民への啓発活動を強化し、家庭向け低圧電力の供給を進めていくとしています。
浜松市の公民一體となったエネルギーの地域循環の取り組みは、広域な公民連攜事例として、他地域からも注目されています。

自治體と地元大手企業との連攜による取り組み事例 ~靜岡県靜岡市~

靜岡市は、靜岡県の中央、駿河地方に位置し、人口約68.4萬人の政令指定都市で(靜岡市ホームページ 令和3年4月12日公表)、江戸時代初期には「駿府」と呼ばれ、徳川家康の隠居の地となってからは、大御所政治(駿府政権)が敷かれ、実質的な首都として機能した都市でもあります。このような背景から、浜松市とは対照的に城下町として落ち著いた風情を有しており、靜岡県中部地區における商業都市、ビジネス都市として機能しています。
その靜岡市は、エネルギーの地域內循環を推進して、地球溫暖化対策、防災機能の拡充、地域経済の活性化を実現し、さらには公的電力調達のコストの削減を図る「エネルギーの地産地消事業」を進めています。具體的には、①市內2カ所の清掃工場における余剰発電電力の売電、②市內で作られた電力の市有施設への供給、③小中學校80校への蓄電池の設置とバーチャルパワープラント(VPP:仮想発電所:複數の発電設備をコントロールし一つの発電所のように制御する機能)の運営、という三つの業務を2017年から7年間、新電力事業を事業化している市內の大手企業と一括契約することで、事業の実現を図っています。電力の売買を一社に委託することにより、売電売掛金の未回収リスクを低減化し、かつ制御が難しいVPP構築を民間投資の活用により実現しようというものです。この取り組みにより、市內小中學校に蓄電池が設置され、再生可能エネルギーの活用を促進するとともに、災害時の非常電源としての利用が可能となっており、防災機能の拡充が図られています。また、蓄電池の設置やVPPの運用経験は、地元企業のノウハウ向上に繋がり、さらに學校職員や生徒へのエネルギーの地産地消に対する啓発にも貢獻することができます。靜岡市によれば、この事業による電力経費削減効果は、2017年度:約1億2800萬円、2018年度:約1億3500萬円とされており、コスト面でも大きな成果を上げているようです。國の補助を受けずに自治體単獨で民間企業と連攜し、電力の売買とVPPの構築を実現した靜岡市の事例は、全國的にも珍しく、注目に値する取り組みであると思います。

國內の多様な公民連攜の可能性

公民連攜(PPP:Public Private Partnership)の取り組みは、全國各地の自治體で広がっています。公民連攜とは、端的に言えば「公(官)と民が協同して公共サービスを提供する」ことで、従來の公民による出資関係のみで定義される第3セクターとは區別される概念です。全國で活発になっているエネルギーの地域循環共生圏形成の取り組みも、公民連攜の手法を取り入れたものですが、浜松市と靜岡市における事業に見られるように、地域の特性によって実現手法に違いがあるようです。浜松市の場合は、自治體と民間企業が共同出資により運営會社を設立し、迅速かつ効率的で持続的な公共サービスの開発を推進している事例であると考えられます。一方、靜岡市の場合は、公共施設の運営を民間企業に委託する、いわゆるPFI(Private Finance Initiative)手法が採用されています。いずれにしても、目的は地域課題を解決する持続可能な公共サービスの提供?維持にありますので、両市の施策は、地域性に合った公民雙方のリスクの最小化と利益の最大化、公民で共有すべきガバナンスの確立を考慮した結果であると思います。
今後も、全國でエネルギーの地域循環共生圏形成に向けた公民連攜事例が拡大すると思われますが、さらに住民參加を促進し、時代に合った公共サービスが提供できるような、柔軟な事業體制へと発展することを期待したいと思います。

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