
サプライチェーン
秋葉淳一のトークセッション 第1回 データが物流DXを促進し、イノベーションを起こす株式會社フレームワークス 代表取締役社長 秋葉淳一 × 株式會社Hacobu 代表取締役CEO 佐々木太郎
公開日:2021/01/29
會社を変える物流DXの真価
秋葉:佐々木社長とは2017年にも対談させていただき、あれから3年が経ちました。時間が経っているようで経っていないような気もしますが、この間、大きな変化がありましたね。
佐々木:2017年當時はアメリカから帰ってきたばかりで、荷主と配送のマッチングが、物流事業のIT化、デジタル化の本質ではないということに気づいた頃だったと思います。アメリカでも、けっきょくは人がやっているということがわかりましたし、ウーバー?フォー?トラックという言葉もありましたが、あれは幻想だったわけです。ここで進む道がはっきりと変わりました。ダイワロジテックと業務提攜を結んだのもその頃です。Hacobuの仕組みは、使われているお客様とそれによって関わる方々が多いので、仕組みとしては導入いただくことはできますが、全體の業務としては単體では成立しません。ダイワロジテックをはじめ、いろいろな企業と連攜することで、ようやく全體として価値が生み出せるようになってきたのだと思います。
秋葉:単體では成立しなくとも、Hacobuの仕組みを入れることで、デジタル化が進み、事業のプロセスを変える、會社を変える、といったきっかけになったところは多いのではないですか。
佐々木:最近はDXのきっかけにもしていただいています。物流業界でも「物流DX」と言われ始めていますが、基幹システムやWMS(Warehouse Management System)が古い場合、そこに手を入れるのは非常に大変な作業になります。Hacobuの入荷予約やバース予約の仕組みを導入いただくことで、デジタルデータが蓄積され、かつ、そこから得られるデータを使ってイノベーションにつなげることも可能です。そういったところから、良いDXの入口として捉えていただけているようです。
秋葉:WMSにしても、WCS(Warehouse Control System)にしても、要件を整理することから始めなければなりません。一方、バースの話は非常にわかりやすく、なおかつ、Hacobuが提供している仕組みを入れたらすぐにできますし、導入した後の効果もすぐに出ます。きっかけを作るという意味ですごく良いのでしょうね。
佐々木:それに加えて、「ホワイト物流」という國の政策も大きなインパクトがありました。國の政策はインパクトがないとネガティブなことを言う人もいますが、私は、國が動くと大きな方向性が作られると考えています。Hacobuは「ホワイト物流」推進運動に賛同して、持続可能な物流の実現に向けて、2019年7月に「自主行動宣言」を提出しました。「ホワイト物流宣言」は賛同する會社が申請するだけで、申請しないからといって罰則があるわけではありません。しかし、出していないとまずいという空気感が作られたのも事実でしょう。それに、國土交通省からあれだけアナウンスしていただいたことで、今のままではいけないという雰囲気が生まれたのだと思います。そういう意味で國の政策には意味がありますし、Hacobuの仕組みが評価を得たのも、そうした國の動きに後押しされたようなところがあります。
秋葉:実際にバースの仕組みを導入した會社で、お客様の変化を感じることはありますか。
佐々木:まず、勘と経験で行われていた業務のデータが見られるようになるわけです。倉庫の作業には、入荷?保管?出荷と、大きく分けて三つがあります。Hacobuは入荷するところのツールですが、そこがデータとして見えるようになるだけでもさまざまな発見があります。それがDXのインパクトなのだと思います。お客様からも「やっぱりデータが見えると違うね」というお聲をいただいています。
例えば、大手流通様の事例ですが、導入している全拠點のデータを分析してお見せしたところ大変驚いていらっしゃいました。これは自分たちの倉庫內オペレーションの生産性という課題にとどまりません。どのようにものが入ってくるのかを見ることで、自分たちのサプライチェーンのネットワークがどうなっているのか、初めてデータとして見えてくるのです。データというファクトを見ることで、そこからさまざまな発見があり、本當の議論が始まります。これまでは、「あそこは積載が満載で來ることが多いですよね」というような、どちらかというと定性的な話が多かったのですが、実際にデータを見てみると、「ビールメーカーは満載なのに、それ以外の飲料メーカーは積載率50%~60%で來ていますね」といったことが、具體的な事実を元に話せるようになります。そこからようやく建設的な議論ができるのです。これがまさにDXのポイントです。
秋葉:事実からスタートするということですね。データは事実なので、主観も入りませんし、人の意見の否定でも何でもありません。これまで、そういうデータを見たことがない人にとっては衝撃的なことですね。
佐々木:定性の議論だけだと主義やイデオロギーの戦いになってしまいます。ところがファクトデータがあると、そこには主観や主義の余地がありません。まずは議論の土臺ができるという點で、データは非常にパワフルです。さらに、それを蓄積することができるデジタルツールは大きなインパクトがあります。これまではツールを導入するだけのケースが多かったのですが、ようやくこの1年で実際のデータを分析して紹介するところまできました。そこまでいくと、目から鱗が落ちるようにDXの価値を感じていただけると思います。
コネクテッド?トラックがIoTデバイスとなる時代
佐々木:別のアプローチとして、日野自動車さんとの取り組みがあります。これは、2019年9月4日にリリースを出させていただいたのですが、「ドライバー不足等の社會要因によって、このままでは重要な社會インフラである物流が立ち行かなくなるのではないか」という危機意識と、「重要な社會課題である物流危機の解決を目指して、オープンな物流情報プラットフォームの展開とソリューションの具體化を推進したい」という志が一致し、日野自動車さんとの資本業務提攜契約の締結に至りました。この連攜によって、Hacobuは、コネクテッド?トラックというIoT活用による「Sharing Logistics Platform」の実現加速を目指しています?!窼haring Logistics Platform」とは、IoTとクラウドを統合したオープンな物流情報プラットフォームであり、會社?業種の枠を超えてビッグデータが蓄積?利活用されることで、社會最適を実現することを目指すというコンセプトです。
Hacobuの提供するバース予約のシステムは結節點の情報になりますが、運んでくる車の情報について、日野自動車さんとの連攜が生まれました。私が昔から思っていたことなのですが、トラックがコネクテッド化されていくと、そこから情報を取ることができるので、GPSデバイスやデジタコといったツールを後から付ける必要がありません。トラックメーカーが出している情報に対してAPIでつなぐことで情報を使えるかたちにすれば、車載コストが一気に下がり、テレマティクス(Telematics:Telecommunication、Informaticsを組み合わせた造語)の普及も進むでしょう。コネクテッド?トラックが進んでいくと、いろいろな情報がトラックから取れるようになります。システムやツールに依存することなく、APIによる処理で自分たちの車両情報を取れる時代がやってくるのです。
秋葉:私の周りでも、中継物流を事業化するために実証実験を進めている企業があります。また、隊列走行の実証実験は豊田通商さんがメイン実施されています。自動車メーカーやトラックメーカー、さらに周りも含めた自動車産業系の人たちが、車をどう作るかだけではなく、「情報をどうやって集めるか」「情報をどうやって使うか」へと、考え方が少しずつ変わりつつあると感じています。
佐々木:ハコブの注力領域はいくつかあるのですが、自動車のサプライチェーンも注力領域の一つとなっています。今、自動車産業の中で、「サプライチェーンの中のロジスティクスをきちんとデジタル化していく」という大きな潮流があるように思います。各社が取り組むのはほとんど調達物流で、そこをどうしていくかですね。
秋葉:製品になるとそれぞれの販路などがありますからね。部品は、ティア1、テイア2とだんだん下がっていくと、実は共用の會社だったりすることがあります。そこのデジタル化には二つの入口があると思います。車をつくる人たちがどうやって情報を取るかという仕組みづくりがある一方で、周辺で車づくりに関わる人たちが、「コネクテッド○○」のようなかたちで最初から用意していくのです。この後者の仕組みが進むと、また一気に加速していくのではないでしょうか。
佐々木:加速するでしょうね。加速の要因として、トラック自體についての問題もあるし、ユーザーの方々の意識の違いもあります。それに、この産業に新しく入ってくるデジタルプレイヤーもだいぶ増えてきています。この5年で少し景色が違ってきました。それぞれ競爭関係にはありますが、そのような人たちが入ってくることで、新しい血によって、それまでのものが変わっていく局面を迎えていると感じます。
今日の午前中、ある會社さんでDXの相談をさせていただいたとき、「過去のロジスティクスはいろいろなところに虐げられてきて、悲しみの歴史だった。その歴史がDXによって大きく変わる」というお話を聞きました。過去數十年の悲しみの歴史によって、DXというきっかけをもってしても立ち上がれないほど打ちのめされてしまった人たちと、DXによってもう一回立ち上がろうとしている人たち、この二つに分かれるような気がします。後者の人方々は、われわれのような新參者が「こんなことができるようになりますよ」という話をすると、すごく元気になってくれます。前者の方々は、「とは言ってもね、過去にこういうことがあって…」と、いろいろなトラウマがあるようです。われわれのような新しいプレイヤーが入っていくことによって、元気になり、勇気を持っていただける方々がいらっしゃるということは、業界にとって良いことだと思っています。
秋葉:前回お話しいただいた3年前に比べて、Hacobuはツールに留まらず、物流のITソリューションすべてのコンサルティングをされていて、事業のステージが広がっています。
佐々木:ツールを導入してもらうのはあくまでも手段であって、目的はどうやったら「運ぶを最適化」できるかというところです。ツールを導入してもらうと、個社だけではない、サプライチェーンに関わるステークホルダーのデータが蓄積されます。それを掛け合わせることで、全體の「運ぶを最適化」できるはずだという信念の元にこれまでやってきました。ただ、當初の想像と少し違ったのは、データがあれば皆さん最適化できるわけではなく、データをどうやって使うかが大事だということです。當初はそうした課題が出てくるとは思っていませんでした。
事業を続けてきて、データはたしかに蓄積されてきました。當初は、ユーザーの皆さんがそれをうまく使うと思っていたのですが、そうはなりませんでした。われわれのほうから能動的にデータ分析をする。かつ、會社同士を引き合わせる必要があれば、われわれのほうで動く。そういったことをやらないと、全體の「運ぶを最適化」できないことがわかりました。ですから、そうしたサービスの提供分野でやることは増えたかもしれません。
秋葉:そこは私たち大和ハウスグループも仕事をしなければいけないところでもありますが、「運ぶを最適化」することにおいてはHacobuがやるほうが、効果的でしょうね。お客様にしてみれば、実際にサービスを使ってデータを集めている會社の人たちがそれを説明してくれるわけです?!高\ぶを最適」にすることを目指している會社が、いろいろな會社の情報を見た上でやってくれることなので、すごく強いですよね。私たちが「倉庫內の話は私らに任せてくれ」と言っているのと同じ話で、「運ぶ」というところに対しては、Hacobuがやるのがベストなのではないでしょうか。
先ほど佐々木さんが、「これをきっかけにという思いの人たちと、トラウマになってしまって踏み出せない人たちがいる」とおっしゃっていましたが、「このタイミングで」と思っている経営者の方々は非常に熱いですよね。このタイミングを逃してはいけないと思っているので、世の中の時間軸や自分自身のキャリアとしての時間軸も含めて、ものすごく意識されていると感じます。世の中を物流やロジスティクスの目線で見ると、大きなうねりが來ています。
大和ハウスグループとして、そのうねりを機敏にとらえ、業界全體を先導していく必要があります。このタイミングをのがさず、しっかりとグループ內の意識を変えていくことも、私の仕事だと思っています。
トークセッション ゲスト:學習院大學 経済學部経営學科教授 河合亜矢子
トークセッション ゲスト:セイノーホールディングス株式會社 執行役員 河合秀治
トークセッション ゲスト:SBロジスティクス株式會社 COO 安高真之
トークセッション ゲスト:大和ハウス工業株式會社 取締役常務執行役員 建築事業本部長 浦川竜哉
トークセッション ゲスト:株式會社Hacobu 代表取締役CEO 佐々木太郎
トークセッション ゲスト:明治大學 グローバル?ビジネス研究科教授 博士 橋本雅隆
トークセッション ゲスト:株式會社 日立物流 執行役専務 佐藤清輝
トークセッション ゲスト:流通経済大學 流通情報學部 教授 矢野裕児
トークセッション ゲスト:アスクル株式會社 CEO補佐室 兼 ECR本部 サービス開発 執行役員 ロジスティクスフェロー池田和幸
トークセッション ゲスト:MUJIN CEO 兼 共同創業者 滝野 一征
トークセッション ゲスト:株式會社ABEJA 代表取締役社長CEO 岡田陽介
トークセッション ゲスト:株式會社ローランド?ベルガー プリンシパル 小野塚 征志
トークセッション ゲスト:株式會社アッカ?インターナショナル代表取締役社長 加藤 大和
スペシャルトーク ゲスト:株式會社ママスクエア代表取締役 藤代 聡
スペシャルトーク ゲスト:株式會社エアークローゼット代表取締役社長兼CEO 天沼 聰
- 第1回 お互いのビジネスが「シェアリング」というコンセプトで結びついた
- 第2回 まずは見ていただいて、シェアリングの世界を感じていただきたい
- 第3回 シェアリング物流のコアで、かつ本質的なところは、進化すること
秋葉淳一のロジスティックコラム
トークセッション:「お客様のビジネスを成功させるロジスティクスプラットフォーム」
ゲスト:株式會社アッカ?インターナショナル代表取締役社長 加藤 大和
トークセッション:「物流イノベーション、今がそのとき」
ゲスト:株式會社Hacobu 代表取締役 佐々木 太郎氏
「CREはサプライチェーンだ!」シリーズ
- Vol.1 究極の顧客指向で「在庫」と「物流資産」を強みとする「トラスコ中山」
- Vol.2 「グローバルサプライチェーン」で食を支える日本水産
- Vol.3 「當たり前を地道にコツコツ」実現したヨドバシカメラのロジスティクスシステム
- Vol.4 「新たなインテリア雑貨産業」を構築したニトリホールディングス
- Vol.5 物流不動産の価値を上げる「人工知能」が資産価値を上げる
- Vol.6「ロボット」が資産価値を上げる
- Vol.7「人財」が資産価値を上げる
- Vol.8「ビッグデータ」が資産価値を上げる
- Vol.9 AI、IoTがCRE戦略にもたらすこと
「物流は経営だ」シリーズ
土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)
株式會社フレームワークス會長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に攜わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス?リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式會社フレームワークスに入社、SCM?ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。
単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。